『レジアス・ゲイズ中将。これが最初で最後に通信になります』

 長年職務を行った執務室である。重厚な机の上、酒の注がれた二つのグラスをぼんやりと眺めていたレジアスの耳に女性の声が届く。

 最初で最後と声の主が言った通りこれまで『彼女』とのやり取りは細心の注意を払って行っていた。書面を人力で届けたこともある。伝言だけでやり取りをしたこともある。いずれも信用のおける筋を使っての通信であったので、とにかく不便で時間がかかった。

 全てが終わった今となってはその苦労が懐かしくもある。相手の強大さを考え慎重に慎重を重ねて行動をしてきた訳だ。それもこれも時空管理局を牛耳る勢力を根絶やしにするためのことだった。

 最高評議会の面々を確かに始末したという情報の裏を取るために時間を食うハメになったがそれも確実となり、情報を共有する段階になった今『彼女』らは既に戦後を見据えて動いているということなのだろう。

 頼もしいことである。そこに加われないことを聊か寂しく思うが、それもまた仕方のないことではある。

『全ての局員を代表して貴方に感謝を。公式に記録に残せないのが残念です』
「そういう仕事だ」

 空間モニタには紫紺の髪をした怜悧な風貌の美女がいる。レティ・ロウラン。『本局の魔女』『紫紺の女帝』などとあだ名される本局屈指の才媛だ。

 能力だけでなくその美貌でも一世を風靡した人物であり『深緑の戦乙女』リンディ・ハーヴェイと局内の人気を二分したことでも知られている。今では高町なのはやらフェイト・テスタロッサが持ち上げられているが、かつてその場所にいたのがその二人だ。

「今後意思決定はどのように行われるのだね」
『最高評議会という名前はそのままに、今後はメンバーをオープンにして行われるでしょう。席数はまだ決まっていませんが、いずれも先の最高評議会の息のかかっていない人間が選ばれるはずです』
「やつらの根は深く広い。精々油断しないことだ」
『肝に銘じます』

 レティの言葉にはきちんとレジアスを立てるものがあった。レジアスは中将、レティは准将であるので階級差を考えれば当然のことではあるのだが、とかく本局の人間は地上の人間を軽視する傾向が強く、特に地上の強硬派であるレジアスは一部の本局局員から煙たがられる傾向になった。

 下の階級の人間に下に見られることもしばしばだったのだが、レティにはそれがない。本局局員がこういう連中ばかりなら、地上もここまで苦労しなかったのだがと心中で苦笑する。

 そういう人間が少ないからこそレジアスの計画は上手く行ったと言える。

 自分たち以外にも反最高評議会の動きがあると気づき、細心の注意を払って接触を試みた。その幹部の一人があのレティ・ロウランだと知った時は驚いたものだが、管理局の人物金の流れ全てを把握していると言われる『本局の魔女』だからこそ、その流れを見ている中で管理局の裏にいる者に気づけたのだろう。

 同じことをやっていたからこそ、その苦労が良く解る。ただレジアスたち以上にレティたちの動きは巧妙でありそれ以上に執念深かった。

 それでも、彼らとレジアスたちの戦力を合わせても最高評議会との戦力は拮抗していたと言える。何しろあちらは反権力の存在を感知すればその処分に躊躇いがない。レジアス一派も無傷とはいかず、今まで何人もの同士たちが敵の凶刃に倒れてきた。

 楔を穿つためにレジアスは自ら危ない橋を渡った。信頼のできる人間に確かな、そして決定的な情報を渡す。ただそれだけのことだが最高評議会の厳重な監視の目を抜けて彼らに情報を渡すことは、レジアスの立場をもってしても難しいことだった。

 信頼のおける人間を見出すことに腐心し、本局との繋ぎを作る。本局に対する強硬な態度はレジアスの本心ではあったが、それが良い隠れ蓑になった。

 情報部他、本局の実行部隊が最高評議会の実働部隊をほぼ全て制圧することができた時点でレジアスたちの勝利はほぼ疑いようのないものになった。何度でもどこでも仕切り直せるスカリエッティに対して、最高評議会の面々にはそれができない。

 彼らは強大でこそあるが、他の大多数の人間と同様にその時間は連続している。仕切り直しはできないのだ。であるからこそ、彼らは自らの権力と実行力を維持することに腐心していた。一度それを失ってしまえば、日陰の立場でこれを覆すのは容易なことではない。

 それなのに実行部隊である非正規戦隊はそのほとんどが制圧され、管理局内部に潜んでいた機人『ドゥーエ』が行方不明となったことで、不利は決定的なものとなった。何もできずどこにも行けず、後は殺されるのを待つだけの存在となった彼らはついに亡き者となった。

 長い暗闘の歴史に一区切りがついた瞬間である。最高評議会はついに消滅し、スカリエッティはおそらくこれから姿をくらませる。奴らに連なった人間のリストは既にレティの元に私てある。不穏当な勢力もこれで一掃されるだろう。新たな、そして開かれた管理局の体制がこれから始まるのだ。

『これからを担う中に貴方を参加させることができないのが非常に心苦しい』
「責任者とは責任を取るためにあるのだ。膿は全て儂が持って行こう。後のことは残した部下を頼っていただきたい」
『信頼されているのですね』
「自分で見出し育てた者たちだ。これからの管理局を担う高い志を持っている」
『……重ね重ね、感謝いたします』

 通信はそこで終了した。

 協力は元より行ったことさえ表沙汰にはなることはない。悪事は闇に葬られ、今後権力を握る者たちが都合の良いように過去を改竄していく。真っ当な正義とは言えないのかもしれない。

 今は高い志を持っていたとしても、いずれ彼らも権力を維持拡大することに腐心し、持っていた志に反する行いをするようになるのかもしれない。

 しかし、前には進んだのだ。膿を出し切り、今よりもずっとマシな管理局にすることはできた。理想とは程遠い、まだまだ改善すべき所がある世界ではあるが、それでも理想に近づけることはできたのだ。

 言い訳めいた問答は、何十年もレジアスが繰り返してきたことである。

「ゼスト・グランガイツ様をお連れしました」
「通せ」

 『秘書』の女の言葉にレジアスは短く答えた。
 奇しくも同じ陣営に属することになって長いが、ゼストを直接顔を合わせるのはあの事件以来のことだった。あの事件を生き残って以降、スカリエッティの庇護を受けて活動していたことは知ってはいたが、その内容についてまでレジアスは感知しなかった。

 最高評議会に排除されなかったことを鑑みるに決して反抗的ではなく、その活動内容にしても彼らの利益と競合しなかったのだろう。

 昔と変わらない武骨な顔の傍には融合機の少女の姿があった。レジアスが視線を向けると忌々しそうに逸らす。言葉を交わすのも嫌だとでもいう風に無言でゼストの隣に佇んでいる。

 昔から本当の意味で女っ気のない男だったが、ついに傍に置くことにした女がこの少女と思うと巡り合わせというのは解らないものである。

 これでその少女が殊更騒ぐのであればご退場願うしかなかったが、ゼストが視線を向けると少女は大人しく秘書の隣に居場所を映した。レジアスの前には今、ゼスト・グランガイツ一人が立っている。

「レジアス」
「久しぶりだなゼスト。やつれたな、食事くらいきちんととったらどうだ?」
「そう言うお前は太ったな。心労とは無縁と見える」

 口の端を上げてグラスを進める。長年の友人は無言でグラスを取ったが口はつけない。レジアスもグラスを取るがそのままだ。ゼストを案内してきたレジアスの秘書――のふりをした機人ドゥーエは、われ関せずとばかりに偽装を解き、レジアスとゼストの中間で『気を付け』の姿勢で佇んでいる。

「外の世界はどうだった、ゼスト」
「筆舌に尽くしがたいものを見てきた。管理局の手の及ばない地域がまだ多くある。そんな場所で助けを必要としている人々の、助けとなった日々だった。管理局にいては目にできない光景だったろうよ」

 ゼストはレジアスを責めなかった。彼とその部下たちが危機に直面したことに、レジアスが全く関与していなかった訳ではない。そも、ゼストがこの数年与してきたジェイル・スカリエッティは元はと言えばレジアスのコネである。

 いわば同じ派閥に属することになったゼストであるが、そうなってからは一度も旧友に顔を合わせることはなかった。行動を制限されていなかった訳ではないが、自由を全く保障されていなかった訳でもない。会いに行こうと思えば会いに行けた。連絡を取ろうと思えばとれたのにそれをしなかったのは、何を話して良いのか解らなかったからだ。

 こういう時に、口下手な自分は酷く恨めしく思う。言いたいことも伝えたいことも山ほどあるはずなのにそれが口を突いて出ることはない。男は言葉ではなく行動で示すものだというのは、昔レジアス自信が言っていたことだったように思う。衝突することもあったが、ゼスト・グランガイツとレジアス・ゲイズは人生万事この調子だった。

 思えば回り道をしたものだ。しなくても良い苦労をしたように思う。

 だが振り返ってみて……後悔がない訳ではないが、悪い道ではなかったように思う。少なくとも、 

「俺は……俺にしかできないことをやったよ。裏に巣くっていたものどもをあぶりだしてやった。凝り固まった思想の連中も諸共引きずりおろしてやる。これから、管理局は今までよりは良いものになっていくだろう。俺は俺の仕事をした」
「後悔はないのか?」
「ない。俺は俺にしかできないことをやった」

 自分にしかできないことだった。これで管理局は、世界は良くなっていく。自分の名前は地に落ちるだろうが、後悔はない。

 ないはずなのだが、青雲の志に燃えていた若き日の自分に、謝らなければならないことがあるように思えた。地上の人々と平和のために何でもする。その決意はあの頃と少しも変っていないが、今とあの頃で決定的な違いがあった。

 あの頃の自分は確かに夢を持っていた。それが叶うと信じていた。成すべきことを成した。ここに後悔はない。だがそれでも、旧友を前にただ一つ愚痴をこぼせるのだとしたら。

 考えた末に、レジアスは小さく苦笑を浮かべた。

「…………一度くらいはなってみたかったよ、正義の味方というものに」
「お互い良い年だ。その辺りは来世に期待するとしよう」

 聞きたかったことは全て聞けた。疑いを持ったことはあったが目の前にいるのがあの日と変わらず、信ずるべき物を信じる男であることに変わりはなかった。

 少しでも疑いの心を持った自分を洗い流すためにグラスを掲げるゼストにレジアスも合わせる。
 
「管理局の未来に」
「我々の来世に」

 グラスを合わせて一気に中身を飲み干す。昔は良く飲み交わしたものだ。酔っては殴り合いお互いの理想を語ってはまた殴り合った。情熱を持って仕事をすれば、それだけで世界を変えることができると本気で信じていた頃の話である。

 その頃の思いは見る影もないが、あの日語っていた理想と正義は形を変えてここに残った。後は本当に来世に期待することになる。

「私の記録はどこにも残らないことになりそうよ。新しいご主人様も私の身体にご執心なのよ」

 面倒なことにね、とドゥーエは一人ごちる。如何に『新しいご主人様』とならがやり手でもドゥーエの能力があれば逃げ切ることは容易いはずだが、それでも管理局に留まり続けているのは彼女なりの考えがあってのことなのだろう。

 酷薄で今まで殺した人間の数も両手ではきかないだろうが……少なくとも姉妹にかける情はある。機人も幾人かは管理局の支配下に入るだろう。その立場を少しでも良くするためとなれば、これから忙しくなる管理局の新しい上層部にとって、かつての最高評議会の暗部を知り、かつ忠誠心の期待できる駒というのは貴重である。

 さて、と身構えたドゥーエがドアに視線を向けるとノックもなしにぞろぞろと男たちが入ってくる。武装した局員たちだ。彼らは部屋にゼストがいたことに驚いたようだが、そのまま職務を続行することにしたらしい。

 ゼストの方も彼らの顔には見覚えがあった。全員レジアスの部下であり、いつだか彼が見どころのあると言っていた者たちだった。

「レジアス・ゲイズ本部長。貴方に逮捕状が出ている。これにより貴方の職務は沙汰が下されるまで停止され、管理局員としての特権もまた停止されるのので……」

 言葉が続かない。涙を流し俯いている男たちにレジアスは苦笑を浮かべた。

「泣くな。胸を張って職務を果たせ」
「閣下。無念であります」
「俺は俺にしかできないことをやった。お前たちはお前たちにしかできんことをやれ。後は任せたぞ」

 レジアスの言葉に若い局員は涙を堪えて顔を挙げた。離れてみれば歴史に残る大捕物の最中である。すべきことをするのだ。自分のすべきことはここで泣いていることではなく、法に乗っ取り犯罪者を逮捕することである。

 局員の顔が変わったのを見るとレジアスは黙って両手を差し出したが、局員は首を横に振った。手錠をかけろという意図であり、通常の逮捕の場合、特に重大な犯罪に関わる逮捕者に対して手錠をかけるのは当然のことである。

 再度、レジアスは今度は強めに腕を差し出したが局員は重ねて首を横に振った。手錠をかけるのは慣例に分類されることであって、必ずやらなければならない手続きではない。

 そして手錠をかけるかかけないかは逮捕状を持ち、現場に踏み込んだ捜査員に委ねられる。この局員が必要ないと判断すれば、それは必要のないことなのだ。無論のこと、後でそれを責められることはあるだろうが、そこはもう個人の責任の範疇であり、少なくとも既に逮捕されたレジアスの関知することではなかった。

 必要ないというのであれば仕方がない。堂々と胸を張って連行され執務室を出たレジアスが見たのは、緊急事態にも関わらず整列した地上局員の姿だった。彼らは一様に居住まいを正し敬礼している。これから連行される罪人への態度ではない。やめさせようと思ったが、レジアスは思いとどまった。

 逮捕状を局員が持ってきた時点で自分の職権は失われている。レジアスにはもはや彼らに命令する権限はないのだ。言った所で彼らはやめはしないだろう。自分が集めただけあって粗忽で頑固だ。そこが良くもあるのだが、彼らがいるなら今よりも大分マシな管理局になると確信が持てる。

 これからを担う人間に見送られ、安心して後を任せることができる。苦労の連続だった。ロクな末路にならないと覚悟していた自分に与えられる最後にしては、随分と気の利いた最後である。

 小さな花道を行くレジアスの顔には微かな笑みが浮かんでいた。

 堂々と連行される旧友の姿を見送ったゼストはもうここに用はないとアギトに視線を向けた。ドゥーエはひらひらと手を振り入室した時とは別の人間に偽装する。これから姿をくらませるのだろう。

 普通であればこれが今生の別れとなるのだろうが、不思議とゼストはこの女とまだ縁が繋がっているように感じた。人生はまだ続く。やらなければならないことはまだ沢山ある。レジアスのそれには漸く一区切りがついたが、ゼストはそうではない。

 それにレジアスにしても、区切りがついただけで終わった訳ではない。遠い昔、志を持って管理局に入った時から、ゼスト達のやるべきことに終わりはないのだ。命ある限り、力の続く限り、全て、地上とそこに暮らす人々のために。

 自分の身がどこにあってもそれは変わらない。もはや管理局員とは呼べない立場になったゼストも、その志はまだ胸にあった。

 アギトを伴い部屋を出た直後、そこに見知った顔が並んでいた。皆ゼストやレジアスと同年代。記憶が確かならば彼らのほとんどは退役していたはずである。そのはずなのだが、彼らは局員としての武装を済ませて並んでいた。

 退役した局員が非常時に駆り出されることはある。彼らもその口であるのだろう。未曾有の事態だ。どういう理由で退役したにせよ、人手はいくらあっても足りるものではない。正式な審査を経て予備役に入っていたものであれば、呼ぶに十分な理由がある。

「まだ生きていたか」
「隊長こそ。しわと白髪が増えましたな」
「まだ若い者には負けん。お前たちも、そのつもりなのだろう?」
「もちろん」

 正式に要請を受けて参集に応じた以上、彼らは管理局の指揮下に入る。地上部隊の指揮は地上本部で行っているはずであり、彼らはそこの所属のはずだが、彼らは通路を行くゼストに従って歩いた。地上における脅威の制圧については一括して、地上本部の通信施設から指示が飛ばされている。

 今指示を出しているのが誰かは知らないが、その指揮下に入る旨をかつての仲間の一人が伝えていた。ゼスト一人分、人数を少なく申告しているがそれでも、残り全員のIDは本物でありここに全員揃っているため、申請はほどなくして受理された。

 今は猫の手でも借りたい状況だ。ましてゼストを含めた全員が首都防衛隊に在籍していたのである。向こうにも文句はあるまい。

 便宜上、指揮権はゼストを除き最も階級が上である人間が取ることになったが、彼らは全員ゼストに従って歩いていた。隊長が誰かというのは彼らの中では決まっていることであり、それが変わるのは隊長が指揮を取れなくなった時だけである。

 隊長は、ゼスト・グランガイツはあの頃と変わらず、自分たちの戦闘に立っている。あの頃と変わらない背中に、半分以上引退を決め込んでいた男たちの胸にも闘志が燃え始めていた。

「一応聞いておくが、あの後俺の隊はどうなった?」
「俺たち爺は半引退。今はシュターデンの奴が引き継いでますな。中々精強な部隊に育ったようです。まぁ我々がいた頃程ではありませんが」

 かつての仲間は笑うが内心かつての新米のことを認めていることをゼストは見抜いていた。首都防衛隊の隊というのは人材不足に喘ぐ地上部隊の中でも精鋭とされる。その隊長となれば現場の叩き上げであり、とにかく実力主義だ。

 若い隊長というのは極端に珍しい。なぜなら若い内から才能が開花するような人間は、概ね本局の方に吸い上げられる傾向にある。仲間の言うイヅミ・シュターデンも新米とは言え首都防衛隊に配属されるだけの実力を持っていた訳だから決して無能でも無力でもないが、周囲にいるのは同等以上の条件を持つものばかり。

 叩き上げが隊長に選ばれるのだから、必然的に隊長になるのは年齢が上のものになる。ゼストが隊長を務めていた時も決して若くはなかったが、部下の中にも他の部隊の中の隊長にもゼストよりも年上の人間は大勢いた。

 昇進なりケガなりで現場を退く人間も多くいたが、首都防衛隊は激務とは言え花形。何かと理由をつけて残りたがる人間の多い部隊でもあった。

 そんな環境にあってイヅミは新米から十年で隊長になったのだ。ゼストの記憶にある限りイヅミは訓練校を出たばかりでまだ二十にもなっていなかったはずで、ならば今も三十には届いていない。

 間違いなく歴代でも屈指の若手隊長だ。それこそ血のにじむような努力を重ねたのだろう。あの若さでと思うとゼストにも感じ入るものがあるし、それは仲間たちも同じだ。

 同じ環境でずっと戦ってきたからこそ、イヅミがどれだけ努力したのか理解できるのだ。

「若い者は老人のたわごとなど信じないだろう」
「ではそれを証明するとしましょうか」

 だがそれでも、仕事を全て譲る訳にはいかない。苦しい時にさえ若い者に遅れをとるようならば先達として立つ瀬がない。若い者にやるなぁと言うためには、それなりの働きをしなければならないのだ。維持である。見栄である。

 ある人にとってはつまらないものであるが、彼らにとっては命をかけるだけの理由があるのだ。力なき人の力となり盾となる。管理局員になる時に皆誓ったことだ。今クラナガンは未曾有の危機に直面している。ここで身体を張らないようでは、生まれてきた意味さえない。

「行くぞ、グランガイツ隊。これが最後の出撃だ」