1、

 伝統的に仲の悪い本局と地上本部であるが、どんな思想、組織も一枚岩ではいられないよ

うに、少数派ではあったが、リベラルな思想を持った者がどちらの組織にも存在していた。

恭也にとって本局の代表格が、研究が出来れば後はどうでもいいという姿勢のリスティであ

り、地上本部の代表格が、地上を護ることに命を賭ける男、ゼストだった。



 闇の書事件の前に、研修という名目で世話になって以来、恭也とグランガイツ隊との関係

は続いている。魔法を使わないで戦うということを思いもしない人間が管理局にも多い中、

恭也の持った管理外世界の知識を貪欲なまでに吸収しようとする稀有な集団で、戦術理論か

ら隊員達の持つデバイスの運用にまで、恭也の案が少なからず取り入れられた。



 管理局に勤めるようになった美由希も一緒に参加するようになってからは、恭也達とグラ

ンガイツ隊との、複数による本格的な戦闘訓練も行われている。ゼスト、クイント、メガー

ヌの中でペアを組まれない限り、恭也達は負けはしなかったが、誰を取ってもグランガイツ

隊は隊員達は精強だった。少しでも気を抜くと、打ちのめされる。隊員の誰もが、それだけ

の力を持っていた。



 共に訓練をすることで、以前から精強だったグランガイツ隊も、より円熟味を増していた。

魔導師ランクなどを加味した同じ規模の部隊であったら、地上本部だけでなく、時空管理局

全体で見ても、これほどの部隊はそういないはずである。



 始めた時は何が出来るか解らなかったが、魔法が極めて強い力を持つ世界で、それなりの

成果を挙げることが出来た。恭也としてはそれだけで満足だったのだが、ゼストもクイント

も、他の隊員達も、まだまだ満足している様子はなかった。



 月に一度は来い、いや、地上に移籍しろとまで言われる始末である。評価をしてくれるの

は嬉しいことだったし、グランガイツ隊の気質は恭也自身も好むところだったが、女性ばか

りで立場が低く、会話の度にからかわれていても、特共研には十分に満足していた。



 信頼関係を築いていると思っていた。



 捜査活動に関わらせてもらえるのも、その成果だと思っていたのだが、今、現実としてゼ

スト達全員の行方が掴めない。



 時空管理局地上本部。クラナガンの中央に位置する、管理世界でも有数の高層建築群の、

さらに中央。入って直ぐの所にある受付で、もはや顔馴染みとなった受付嬢と問答をして見

たものの、返答は『グランガイツ隊は任務にて出動中』ということだった。行き先は、軍事

機密つき答えられないという。



 いくつかの注文に付き合ってくれた受付嬢に礼を言うと、グランガイツ隊に割り当てられ

たオフィスに向かって歩き出した。どういう任務に従事していても、書類仕事と無縁ではい

られない。どの部隊にも事務仕事のための施設はあり、グランガイツ隊のそれはここ、地上

本部施設内にあった。



 何度か足を運んだことがあるために場所は知っている。途中、顔見知りの局員とすれ違っ

たので話をしてみたが、グランガイツ隊のメンバーに特に変わった様子はなかったと言う。



 着いたオフィスも、やはり無人だった。受付嬢に無線で確認してもらったのだからそれも

当たり前なのだが、確認せずにはいられなかったのだ。



 おかしい。



 グランガイツ隊の誰も、約束を反故にするようなタイプではない。呼ばれた以上は自分の

力は必要とされていたということで、それを断りもなしに置いていくという真似はよほどの

ことがない限り、しないはずなのだ。



 つまるところ、グランガイツ隊によほどの事があったということだが、緊急性を要してい

るのなら、他の局員の誰かしらが、その変化を察していてもいいはずである。受付嬢の問答

の中にも、緊急に出動したということはなかったし、再三確認もしたが、恭也への伝言は何

も残されていなかった。



 それだけを額面通りに受け取れば、此度に限って言えば、恭也・テスタロッサはグランガ

イツ隊に必要とされていないということになる。世が平穏ならばそれは望むところであり、

それならそれで良いのだが。



「プレシア。少将閣下のオフィスに繋いでくれ」



 事情に精通していそうな人間にも、話を聞かなければならない。レジアスはゼストの盟友

とも言うべき将官であり、地上の平和を願う気持ちは、ゼストに比肩するものがあった。



 三度半のコールの後に、応答があった。中空に浮かんだモニターに、知り人の顔が現れる。

通信であるはずなのに、思わず居住いを正したくなるような雰囲気を持った女性。



「お久し振りです、ゲイズ一等陸尉」

「ご健勝なようで何よりです、テスタロッサ二等海士」



 オーリス・ゲイズ一等陸尉。レジアス・ゲイズ少将の秘書官であり、名前の通り娘でもあ

る。眼鏡の似合う、少々きつめな感じの、好みの分かれそうな美人だった。常に影のように

レジアスに従っているため、擬人化した狸を筋肉質にしたようなレジアスと良く対比され、

親子と始めて知った人間は必ずと言ってもいいほど驚きの声を挙げる。



 恭也もその例に漏れず、グランガイツ隊の隊員達に笑いのネタを提供する羽目になったの

だが、閑話休題。



「それで本日はどういったご用件で? グランガイツ隊の任務支援という申請は受理されて

いるはずですが」

「そのグランガイツ隊の誰にも連絡が取れんのですよ。約束の時間よりも早めに来たのです

が、オフィスももぬけの空で」

「……それは妙ですね」



 何でもない、という風を『装って』オーリスは答えた。オーリスが何か知っているという

ことを恭也は確信したが、問い詰めようにも相手は百戦錬磨の舌戦のプロである。自分では

口を割らせることは出来ないだろうし、階級によって情報を要求することもできない。



 だが、情報は欲しい。とりあえず、という感じで質問を続ける。



「そちらで何かわかりませんか?」

「今調べていますが、既に出動したことしか……出動先については、機密扱いになっている

ようですね。現段階では、当該部隊の隊長補佐以上か、少将以上の階級を持つ者でないとア

クセスは出来ません」



 オーリスは一等陸尉で、恭也は二等海士である。言うまでもなく、階級は不足していた。



「少将閣下は、そちらにおいでですか?」

「会議に出席中です。議論が白熱していたようですから、後三十分は出てこないかと。緊急

の要件ということでしたら、お繋ぎしますが」

「そこまでは。お仕事中、お手数をおかけしました」

「お気になさらず。これも、仕事のうちです」



 口の端を上げて――本人は微笑んだつもりなのかもしれない――オーリスの方から通信を

切った。



 何も分からないに等しかったが、何かあるということは分かった。自分の立場を考えれば、

それだけ分かれば十分だろう。ゼスト達の援護に行くことを、恭也は即座に決定した。大雑

把な所しか場所は聞いていなかったが、プレシアの協力を得れば、近くまで行けばゼスト達

の気配を感じることは出来る。



 だが、物理的な問題が一つだけあった。足がない。



 行くのだとすれば空か陸だが、恭也は空を飛ぶことが出来ず、胸騒ぎがする程度の理由で

はヘリを使う許可も出ない。現状、空から現場に向かうことは不可能だ。それならば陸を行

くしかないが、障害物のない空と違って、地上には建物もあれば人もいる。体力には自身の

ある恭也だったが、街中で全速力で駆ける訳にもいかないし、迷惑をかけない程度に低空を

駆けたとしても、直ぐに航空隊がすっ飛んでくる。走っているのだとしても、空を進んでい

れば違反なのだ。



 加えて、地上を高速で移動するような乗り物の免許など、恭也は何一つ持っていなかった。

あったとしても、その乗り物自体を手配出来る状況にはないので、同じことなのだが……



 八方塞だった。このままでは、走って公共機関を乗り継ぐしかない。それで間に合うのな

らばいいが、胸騒ぎが悪い意味で的中し、手遅れになったとしたら恭也は一生、自分を呪い

続けるだろう。




 走っていく。その決意を固めるのに時間はかかったが、外に向かうその足だけは急いでい

て、本局の制服を着て地上本部の中を早足で歩く恭也を、すれ違う局員達は奇異の目で見つ

めていた。



 決意を固めてジャケットのボタンを外す。声をかけられたのは、そんな時だった。



「恭也じゃないか。地上に着てたのかい?」



 自分を呼ぶ人間などいるはずもないと思っていた恭也は、思わず前につんのめった。そん

な恭也の姿を見て、声の主が小さく笑う。



「ティーダか」

「三ヶ月ぶりくらいかな。元気なようで安心したけど、随分と深刻そうな顔をしてるね。何

かあったの?」



 ティーダが着ているのは、航空隊の制服である。そこに所属する人間は全て航空魔導師で、

例外なく空を飛ぶことが出来る。理解するよりも早く、恭也は声を挙げていた。



「頼みがある。何も聞かずに、俺を抱えて飛んでくれないか?」

「穏やかじゃないね。理由は言えないのかい?」

「聞かない方がいい」



 恭也のこれは、言わば私事である。公務中の管理局員を捕まえて使ったとなれば、相手ま

で処罰の対象となるのだ。窮地の仲間を助けたとなればプラス評価になるかもしれないが、

相殺されずにマイナスのまま、という可能性も否定できない。



 協力してくれたとしても処罰される可能性がある以上、ティーダにかける迷惑は、少しで

も減らしておきたかった。恭也が無理やり、ということにしておけば、ティーダの傷はいく

らか浅くなるはずである。



 恭也の言葉に、ティーダは少しだけ考える素振りを見せると、デバイスを起動させた。



「こちら、ティーダ・ランスター。隊長、都市部の飛行許可を願います。管理局員を一名運

搬しますので、そちらも合わせて」

『なんだ、やぶからぼうに……厄介事か?』

「そのようで。後、手の空いてる人に出動準備をお願いできますか? もしかしたら必要に

なるかもしれないので」

『分かった。俺以下、五分で出発する。合流地点は分かり次第転送してくれ』

「了解。通信終わり」



 通信機を切ると、ティーダは微笑んだ。



「じゃあ、行こうか。着替えてる時間はなさそうだから、その制服は諦めてね?」

「……自分で誘っておいて何だが、いいのか? 隊まで巻き込んで、これで何もなかったら、

減俸くらいでは済まないぞ?」

「君は、困ってるんだろう? なら、助けないとね」

「すまない」

「謝って欲しくはないなぁ。何時にも況して、暗いよ」

「ならば、ありがとうと言わせてもらう。この恩は、絶対に忘れない」

「そんなこと、態々言わなくてもいいよ。友達だろう?」



 友達。久しく使っていなかった、そして使われなかった言葉だった。ティーダはそれを、

臆面もなく口にした。言われた自分の方が恥ずかしいというのは、一体何の罰ゲームなの

だろうか。



「で、僕達はどこまで行けばいいのかな」

「転送する。デバイスを出してくれ」



 歩きながら差し出された、カード状態のデバイスに地図情報を転送するよう、プレシアに

指示。慣れた手付きで中空に出現させた小型キーボードを操作したついでのように、ティー

ダはバリアジャケットを展開した。


 手が差し出された。優男然とした風貌に似合わず、無骨な手だった。



「さ、行こうか。落ちないように気をつけて」





































2、




「――可能な限りお下がりください」



 上空までティーダに送ってもらい、着陸の手間も惜しんで飛び降りた。隊から孤立してい

たクイントを救うことが出来たのは、奇跡と言っても良かったろう。囲んでいたガジェット

を切り伏せ、周囲を探る。



 森の中に、まだ数十のガジェットが居る気配だった。隊員達は全員血塗れて、中には気力

で立っているような者もいた。鬼気迫る表情をした彼らと自分の記憶を照合し、数えて行く。

見覚えのある顔が、二人も欠けていた。



「隊長殿とメガーヌさんはどうしたました」

「中よ。私達を逃がすために、残ったわ」

「中にもガジェットが?」

「むしろ、中にこそガジェットがいるのよ。外に出てるのは、ほんの一部」

「最悪ですね」



 生きている人間がいる。想定していた最悪よりは大分マシな状況だったが、し始めたら高

望みは止まらない。助けられる物なら助けたい……が、現状がそれを許さなかった。



 まずは、眼前の彼女らを助けるのが先決である。当座突っかかっていたガジェットは破壊

したが、闖入者を新たに認識したガジェット達は、恭也を中心に新たな包囲を完成させよう

としていた。



 その一角に突っ込んで行く。馳せ違う。遅れて、両断されたガジェットが煙を拭いた。そ

れによって恭也が最も脅威である対象と認識したのか、周囲のガジェットの銃口が、一斉に

恭也の方に向いた。



 銃声――それが耳に届くよりも先に、神速を発動。モノクロに染まった世界の中、縦横無

尽に動き、ガジェットを断ち、突き、斬り伏せて行く。



 元の世界に戻る。連続して爆発するガジェットの影に隠れながら、新たな一団に突っ込ん

だ。そこで一部のガジェットがグランガイツ隊の方へ向かう。手を右閃かせ、飛礫を放った。

拾った石だが、狙いさえ良ければガジェット相手にも効果を発揮する。カメラの部分を直撃

したそれは内部に達し、ガジェットを沈黙させた。崩れ落ちるガジェットを縫うように、隊

員達の放った魔力光が複数のガジェットを貫く。



 空から降った橙色の魔力光が、さらに複数のガジェットを貫き破壊した。ちら、と見上げ

ると、ティーダの姿。構えた二丁拳銃に次々と魔力を収束させ、必殺必中の一撃をガジェッ

トに放っていく。



 ティーダが戦闘するのを見るのはこれが初めてだったが、十分に一線級であるように恭也

には思えた。執務官の比較対象をクロノしか知らない自分に評価をされても嬉しくはないだ

ろうが、AMFの影響下でガジェットを破壊できるだけの攻撃、無駄弾なく命中させる技術、

それも手当たり次第破壊しているのではなく、状況をきちんと見据え、グランガイツ隊のフ

ォローまでしている。援護だけなら、クロノと比しても申し分ない。執務官にも遠くないう

ちに、なれるのではないか。そう思わせる程に、研ぎ澄まされていた。



 最後の一体にプレシアを突き刺し、沈黙させる。周囲にガジェットの気配はない。施設出

入り口も、静かなものだった。危険は去ったことを解したグランガイツ隊の隊員達が、バタ

バタと倒れて行く。意識のない者もいるようで、予断のならない状況だった。クイントなど

の比較的軽い怪我の者が、応急処置のために回復魔法を当てていく。空に居たティーダも降

下してきて、それに加わった。



『主様は、参加なさいませんの?』

「俺に出来るのは精々、気の流れを活性化させるだけだからな。他人に干渉するのは、どう

も苦手だ」

『では、残りの方の救助にでも向かいますか?』

「そうだな。ここに俺がいても――」



 施設を振り返る。風に乗った。微かな臭いを感じた。その臭いが、恭也の記憶を掘り返

す。全身が危険を訴えていた。本能的に施設から遠ざかるように走り、手近に居た少女の

隊員を抱えて、地面に身を投げ出す。



「全員、伏せろ!」



 皆まで言わずとも、切迫した状況であることを全員が理解した。言葉に従って身を投げ出

すと同時、施設から轟音と共に炎が上がった。荒れ狂った熱気が肌を焼き、爆風が恭也達を

吹き飛ばそうとする。



 地面に伏せていたが、とりあえず爆風が収まる頃には数メートルは転がっていた。周囲に

声をかけながら、起き上がる。爆風に乗った破片で怪我をした物もいない。起き上がれる者

は、のろのろと起き上がっていく。



 そんな中、一人の隊員が施設に向かって駆けていこうとするのを、寸前で止めた。その隊

員は恭也の腕を振り払おうともがいたが、華奢な細腕ではそれが叶うはずもなかった。一頻

り暴れ終えると、その隊員は親の仇でも見るように、恭也を睨みつけた。十代前半の少女だ

った。恭也にとっては珍しいことでもないが、次元世界に来てからは間違いなく会ったこと

はないのに、見覚えある顔をした少女だった。



「まずは、名前を聞こうか」

「イヅミ・シュターデン二等陸士であります。上官殿」



 予想通りの名前だった。何故か今十八(ということになっている)の自分よりもさらに幼

い様子だったが、意思の強い瞳は故郷の世界の、あの人を思い起こさせた。



「俺は恭也・テスタロッサという。階級は二等陸士。畏まる必要はないぞ、好きなように物

を言ってくれて構わない」

「じゃあ言ってやる。どうしてあたしの邪魔した」

「お前が死地に飛び込もうとしていたからだ。AMFの影響はまだ消えていない。あんな炎

の中に準備もなしに飛び込めば、無事には済まんだろう。お前まで死ぬつもりか」

「お前まで、とはどういうことだ。あたし達の隊は、まだ誰も死んでない」

「……言い方を変えよう。お前が命を危険に晒すことはない。既にこの状況は伝えてある。

装備の整った部隊が、まもなく到着するだろう。隊長殿達の救出は、そいつらに任せるんだ」

「そんな悠長なこと言ってられるか。今助けなければ、隊長達は危ないんだ」

「俺は反対だ。クイントさんも、そうだろう」

「なら、あたし一人でも行く。邪魔立てするなら、あんただって――」



 これ以上は無駄だと判断した恭也は、イヅミの腹部に拳を放った。イヅミは大きく目を見

開くと、絶息した。地面に倒れこむ前に手を回し、抱きとめる。応急処置に一区切りをつけ

たクイントが、苦笑を浮かべてやってくる。



「悪いわね。憎まれ役をやらせちゃって」

「ですが、意を汲むのは吝かではありません。ご要望とあらば俺が隊長達の救出に向かいま

すが、いかがでしょう」



 怪我をしていないというだけで、イヅミは消耗していた。偉そうなことを言っておきなが

ら、恭也も炎に対する備えはないに等しかったが、それと比べればまだマシだった。ゼスト

に、メガーヌ。共に管理局になくてはならない存在だ。助けられるのならば助けたい。



 だが、同時にもう駄目だろうという思いが恭也の中にあった。それはクイントも同じだっ

たようで、力なく首を横に振った。



「情けない話だけれど、恭也君には私達の警護をお願いしたいの。ないとは思うけど、今襲

われたら、一溜りもないわ」

「それに関してはティーダもおりますし、奴の仲間が既にこちらに向かっております。ご懸

念は直ぐに解消されるでしょう」

「彼にもだけど、君には感謝してもしたりないわ。よく、追ってきてくれたわね」

「胸騒ぎがしました。外れて欲しいとは思っていましたが、どこかでこうなっているのでは

という確信も持ってもいました」



 ティーダが隊の接近を告げてきた。後一分ほどで、十名程が到着するという。既に通信だ

けは回復しており、最寄の管理局詰め所や、消防、救助隊にも連絡は行っている。



「隊長とメガーヌは、無事かしら」

「あの人達なら生きている。俺はそう思います。この眼で亡骸を見るまでは、俺は絶対に諦

めません」



 あの二人は生きていると、信じていた。信じるだけは、あってもいいはずだ。燃え盛る炎

が、恭也達を照らしている。炎はさらに、勢いを増していた。



























3、



 優しい空間だった。子供どころか結婚も、恋人がいたことすらないが、家庭を持ったらこ

ういう気分になるのだろう、と美由希は夢想する。



 クラナガンの中心部。地上本部施設に程近い、マンションの一室。メガーヌとルーテシア

の母娘、二人で住むには広すぎるこの部屋に、今日は四人の人間がいた。



 住人であるルーテシアと、母メガーヌの同僚、クイント・ナカジマの娘であるギンガにス

バル。一歳になるルーテシアは普段、メガーヌが仕事の際は託児所に預けられているのだが、

たまにナカジマ姉妹の熱烈な要望で、こういうことになることもあるのだった。美由希はた

またま今日オフだったのだが、暇ならば行け、という恭也の命令によって休日を潰すことに

なった。



 ナカジマ姉妹には何度か会ったことがあったが、ルーテシアに会うのはこれが二度目であ

る。恭也には妙に懐いているのに、自分は口を利いても貰えないのが悔しい。やはり恭也か

らは幼女を引き付けるオーラが出ているのだ、と客観的事実を口にしたら、容赦のない地獄

突きを食らった。おかげで三日は声が枯れたままだったが、それだけの痛い目を見ても、美

由希は考えを変えていなかった。恭也は絶対に、どこかがおかしい。



 ともあれ、口も利いてもらえないままというのは、やがて母親になるつもりの身としては、

女の沽券に関わる問題だった。母であるメガーヌからルーテシアの好みをリサーチし、まず

は物で釣る作戦で攻めて見ることにしたのだが……ケーキとか、可愛い服とか、そういう女

の子らしいものを想像し、海鳴でそういった物が買えそうな場所もリサーチしていたのだが、

苦笑したメガーヌから帰ってきた返答は、美由希の想像の斜め上を行っている物だった。



 一歳の、少女である。将来が有望そうで、物静かな風貌からお人形のような、という形容

がぴったりな美少女だった。可愛い服を着れば似合うのだろう。小さな口は、お菓子を食べ

るためにあるような物だ。他の誰もが美由希と同じような連想をし、プレゼントをするとし

たら、同じような物を考えるだろう。



 しかし、である。ルーテシアの手に握られているのは、彼女の身体ほどの大きさもある昆

虫図鑑だった。虫が大好きという女の子にしては変わった趣味を持ったルーテシアは、図鑑

の中で躍動的に動くギラファノコギリクワガタを、きらきらした瞳で見つめていた。



 その様子からプレゼント攻撃が大成功、というのは解ったが、図鑑に夢中になり過ぎてし

まったせいで、美由希は相変わらずルーテシアから無視されていた。ムシだけに、と思って

しまったのは、心に余裕のない証拠だろう。



「ミュー姉、元気だして」



 部屋の隅でたそがれていると、心配した様子のスバルが擦り寄ってきた。人見知りをする

性質らしいが、何故か美由希には懐いている。未だ嘗て呼ばれたことのない、珍妙な呼ばれ

方が気にはなったが、この子犬のような少女を美由希は事の他気にいっていた。



 スバルよりも少し年上の義妹はいるが、自分の妹とは思えないほどにしっかりした少女で、

甘えられた記憶はとんとない、実にお姉ちゃん甲斐のない少女だった。だからと言って愛情

がないではないが、お姉ちゃん風をびゅーびゅー吹かせたかった身としては、もっと妹々し

たイベントが合っても、と思っていたのだ。



 その点スバルは、実に妹らしかった。頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。ああ、

これが妹なのか……と二十歳を目前にして、美由希は無上の幸せを噛み締めた。スバルを抱

きしめ、ほお擦りをする。何故そうされるのか、スバルはさっぱり理解していなかったが、

頬のくすぐったさにとりあえず笑っていた。



 姉のギンガはと言えば、図鑑を持ったルーテシアを膝の上に乗せて、戯れている。何をす

るでもなく、ルーテシアの髪を弄ったり、頬を触ったりしていた。図鑑に夢中なルーテシア

はされるがままだったが、気にした様子もない。スバルに比べると随分としっかりした少女

で、自分がギンガくらいの年齢だった頃と比べると、軽く自己嫌悪になるくらいにしっかり

とお姉さん出来る少女だった。



 一応、美由希は彼女らの面倒を見るつもりでここにいるのだが、三人とも手のかからない

いい娘だった。これなら少しくらいはしたいことをしても、罰は当たらないだろう。ギンガ

を真似てスバルを膝の上に乗せ、持ってきた文庫本を広げた。なになにー、とスバルが覗き

込んできたが、それが活字ばかりの、しかも異国の言葉であると知ると、頬を膨らませて抗

議をする。



 虫の図鑑には興味はないが、活字にはもっと興味がないらしい。早速美由希の腕から逃走

を測るが、しっかりとホールドして逃がさない。活字ではあるが子供向けの内容で、読んで

聞かせる分には喜ばれそうな本を、態々持ってきたのだ。本当はルーテシアに読み聞かせる

ために用意した物だったが、スバルならば大丈夫だろう。



 問題は、読み聞かせた経験が一回もないことだったが、声はいいよね、と褒められること

もままある。だから多分、大丈夫なのだろうと無意味な自信を持ってもいた。これで褒めら

れたらどうしようと、皮算用をしながら息を吸った、まさにその時、呼び鈴がなった。



 ギンガの、スバルの視線が美由希に向く。誰が出るべきなのか、少女達はしっかりと理解

していた。唯一のこの部屋の住人は、昆虫図鑑に夢中である。



 これ幸いとスバルが逃げ出す。姉的立場が遠のいたことを実感した美由希は、足音も高く

受話器に向かう。



「どちら様?」

「管理局地上本部から参りました。火急の用件です」



 火急と聞いて、美由希の表情も引き締まる。受話器を持っているから、ギンガ達に相手の

声は聞こえていない。地上本部の人間がここに来なければいけないような人間――つまりは

メガーヌに、何かあったということだろうか。身内に迎えを寄越すというのは、よほどのこ

とである。



 まずは話を聞いてからだった。手短に答えて受話器を置くと、何でもないという風を装っ

て玄関に。ドアを開けると、きっちりと地上本部の制服に身を包んだ男性が現れた。真面目

な表情を崩さぬまま、美由希は後ろ手にドアを閉める。



「はじめまして。私は地上本部、首都防衛隊第一小隊所属、グレゴリー・ハミルトン陸曹で

す」



 差し出されたIDを、美由希は自分の物と見比べた。美由希の所属は本局だったが、ID

の作りに地上と本局では大きな違いはない。それが精巧な偽物であったら、その方面には素

人の美由希に区別の付けようもないが、何もしないよりはマシと、たっぷり十数秒をかけて

IDを確認すると、眼前のグレゴリーに返却した。怪しい点は、何も見当たらなかった。



「火急の用件とは、どういうことでしょう」

「メガーヌ・アルピーノ捜査官、及びご家族を対象としたテロ行為が行われる可能性に至り

ました。それに伴い、地上本部はお嬢様の保護を決定いたしました。お嬢様には本部施設ま

で移動していただき、アルピーノ捜査官が帰られるまでの間、こちらで保護することと相成

ります。ご了解いただけますか?」

「ご了解も何も、私が何を言っても連れて行くつもりなんでしょう?」

「こちらに居るよりは、本部施設の方が安全であると自負していますので」

「私が着いていくのは駄目? 本局所属だけど、私も管理局員なんだけど」

「アルピーノ捜査官は地上本部の所属であり、この任務は地上本部主体で行っております。

干渉はご無用に願います」



 予想通りの反応ではあった。地上は本局の干渉を嫌い、本局は地上を下に見る。管理外世

界出身の美由希には馬鹿馬鹿しく思えるこの対立は、事の他根深い物のようで、眼前にいる

ような末端の局員でも、本局所属の美由希をまるで敵のように見ることもある。



「どうしても?」

「無論です。私は正式な命令で動いているのですよ。貴女の私情で干渉するというのなら、

こちらもそれなりの対応を取らざるを得ないでしょう」

「なら、変身して私の前に立っているのは、貴方の私情?」



 男の表情が凍りつく。美由希は何でもないといった風に続けた。



「今、私を殺そうとか考えて、止めたでしょ。殺気が出て、消えたからね。貴方に後ろ暗

いことがあるのは、これで解ったかな。貴方にルーテシアは渡さない。どうしてもって言

うなら、私の屍を越えて行くといいよ」

「……既に私の仲間がこの周辺を包囲しています。貴女一人強がっても、無意味ですよ?」

「少なくとも、直ぐに突入できるような範囲にそういう人がいないことは、心強い私の相棒

達が確認してくれたよ。だから敵は、貴方一人。どうする?」



 言葉はつらつらと出てくるが、言葉と内心は違っていた。一人で戦うのならどうとでもな

る。だが、相手の力量が解らないこの状況では、守らなければならない人間の多い美由希の

方が圧倒的に不利だった。



 このまま帰ってくれ。そう念じながら、男をじっと睨み続ける。



 根負けしたのは男の方だった。深いため息をつき、肩を竦める。



「ここは、撤退しましょう。まったく、上手く行くと思っていたのに、とんだ邪魔があった

ものです」

「私がいなくて、ルーテシア一人だったら成功してたと思うよ。私か、私の上司でもなけれ

ば、貴方の変身は見抜けなかったと思うし」

「そのようで。次は貴女がいない時を狙うことにしましょう。では、私はこれで」



 不気味なまでにあっさりと男は踵を返した。その背中が見えなくなり、気配が遠ざかると、

美由希はドアに背中を預け、大きく、大きくため息をついた。



「あー、あぶなかった」

『あの者、人間ではなかったようですが』



 頭の中に、十六夜の声。心強い相棒の一人だ。



「そうだった? 私に分かったのは変身してたことくらいだよ。どんな風に人じゃないの?

妖怪とか?」

『我々のような類とは違うと思います。上手くは言えませんが……鍛えられた刀のような気

配を、あの者からは感じました』

「刀ねぇ」



 その割りには、武芸者のような気配は感じなかった。魔法世界にあっても、武術を修めて

いる物はおり、そういう者は特有の雰囲気を持っている。美由希もそういった気配を感じる

ことは出来るが、先ほどの男からは脅威は感じなかった。何か心得はあるのだろうが、武術

の腕そのものは、達人という訳ではないだろう。普通に戦えば、多分勝てる。それくらいの

相手だ。



『美由希様、ご要望とあらば、僕が周囲を警戒しますけれど』



 十六夜に次いで、御架月が声を挙げた。十六夜の弟で、落ち着きのある姉と異なり、少し

ばかりやんちゃなところがあるが、事あるごとに世話を焼いてくれようとする、心の優しい

少年――大分年上なのだろうが、美由希はそう認識している――だった。



「そこまでしなくてもいいよ。十六夜も御架月も、私と一緒に部屋の中。今日はそれでいい

と思う。これで帰るって言ってたし、多分大丈夫じゃない?」

『だといいのですが』

「それに、いざ戦うと時になって、十六夜一人っていうのは困るよ。御架月もここにいて欲

しいな。これは、私のお願い」

『御意』



 何にしても面倒事は去った。ドアを開けて部屋に戻る。途中で流れてしまった読み聞かせ

を再開しなければならない。目を輝かせたスバルは、それはそれは可愛いだろう。胸糞悪い

男のことなど忘れて、期待に胸を膨らませて今に戻ると、スバルはソファーに寝転がり、寝

息を立てていた。



 えー、と不満を隠そうともせずに呟く美由希に、ギンガとルーテシアの目が集まる。ギン

ガは不思議そうで、ルーテシアは迷惑そうだった。ルーテシアを膝に抱えたギンガが心の底

から羨ましい。あの男が来なければ、自分もそれが出来たのだと思うと、今はもう姿の見え

ないあの男に、軽い殺意が沸いた。



 スバルが寝返りを打つ。美由希が外に出ていたのは五分にも満たないはずだったが、それ

だけで眠りにつけるというのは、美由希からすれば芸術だった。寝顔もとても可愛い。



 美由希の頭の中に、ある考えが降って沸いた。息を潜めて気配を完全に殺す。スバルを起

こさないよう、静かにソファに腰を下ろし、スバルの頭を膝に乗せた。スバルは僅かに身じ

ろぎはしたが、起きてはいない。膝枕。本は無駄になってしまったかもしれないが、この重

みと寝顔は、十分過ぎるほどにお釣りがくるほどだった。



「美由希さん、お姉さんみたいですね」



 ルーテシアの髪を撫でながら、ギンガが言った。ナカジマ家の姉妹は、美由希の家族構成

を知らない。義妹がいるのだから、みたいではなく正真正銘お姉さんなのだが、姉に見える

と言われたのは、初めてのことだった。特に、美由希から見てきちんとお姉さんしているギ

ンガに言われると、感動もまた格別だった。



 スバルの髪を撫でて見た。気持ち良さそうな呻き声を挙げる。どんな夢を見ているのか。

美由希にとっても、至福の時間だった。


























4、



 地上本部近くの、公園である。平日の午前中、行き交う人影も疎ら。散歩する老婦人を見

やりながら、恭也は自販機で買ってきたコーヒーを啜る。



 隣に、人の気配があった。見るとはなしにそちらを見る。クイント。地上本部の制服に身

を包んだ彼女は、神妙な面持ちで一通の既に開封された封筒を差し出してきた。見ろ、とい

うことなのだろう。それを受け取り、中から書類を取り出して目を通す。書いてあることは

恭也の予想通りの物だった。



「陸曹に降格の後、異動になるそうよ。ミッドチルダからは出て行かずに済んだけど、クラ

ナガンからは通うには、少し遠いかしら」



 軽口を言うクイントに、覇気はなかった。



「グランガイツ隊は、どうなりますか?」

「全36名中、二名が行方不明。重傷者19名、うち10名が前線離脱を余儀なくされ、三

名は退職が決定済み。残りの中からも、私を含めて六人異動が決まってるわ」

「十名も残らないのですか……」

「十名近くもも残った、というべきでしょう。本当なら私達は、あそこで死んでいたのだも

の」

「ですが、何も生き残った貴女が責めを負うことはないでしょう」

「軍令に背いて、部隊を壊滅に追い込んだ挙句、本局の人員である貴方の機転で、他の部隊

まで動かして助け出されたのよ。停職にもならなかったのは、上層部の温情でしょう。責任

者というのは責任を取るためにいるのだし、後悔はしてないわ」

「ですが――」

「私より、貴方が胸を張りなさい。貴方のおかげで、私達は助かったのよ。本局嫌いの古株

の中でも、貴方の行動は評価されているわ」

「評価が欲しくて、やったのではありません」

「そういうところ、嫌いじゃないんだけどね……私が言うのも何だけど、適当に人と仲良く

しておかないと、敵を作ることになるわよ?」

「仲良くする人間くらいは、自分で決めたい物です」



 クイントが、苦笑を浮かべる。封筒を返し、買っておいた紅茶を差し出した。プルタブを

開けながら、クイントが問うてくる。

 

「ルーテシアを誘拐しようとした人間がいたそうね」

「うちの部下が対応しました。変身能力を使い管理局員に変装していたそうです。本局運用

部の方で調べてもらいましたが、その局員は当日は休暇を取り、故郷に帰っていたようです。

何か関係があるかとも思いましたが、運用部長の判断は、その局員は白、とのことでした」

「内々に調べてるみたいだけど、事件として扱わないの? もっと人員を使えば、犯人を捕

まえられるかもしれないわ」

「内通者がいる疑いがありますのでね。変身出来る人間が敵にいる以上、ルーテシアの周囲

を局員で固めるというのは、逆に危険です」



 今は美由希が休暇を取り、ルーテシアに張り付いている。メガーヌが帰ってこないことを

不安に思っている様子も、特になかった。気丈に振舞っているが、寂しくないはずはない。

護衛も兼ねて美由希を置いておくのは、悪いことではかった。



「でも、いくら美由希さんが頼りになると言っても、いつまでもルーテシアに張り付かせる

訳にはいかないでしょう?」



 確かに、人がついて護るのでは限度がある。敵の規模がわからないし、何よりここは魔法

世界だ。恭也も美由希も管理外世界の生まれで、警護のやり方もそちらの流儀に偏っている。

魔導師が相手でも戦うことは出来るが、誘拐犯が直接戦闘を挑んでくるとは限らない。



 それに護衛を張りつけ続けることが可能だったとしても、それではルーテシアの生活を阻

害することになる。命を危険を明確に自覚しているVIPであれば我慢のしようもあるだろ

うが、ルーテシアはまだ子供だ。生活を圧迫してはならないし、するべきではない。



 そういうことも頭では理解しているのだが、もしルーテシアが誘拐されてしまったらと思

うと、手を緩めることも出来ない。



 だが、信用の出来る人間は限られているし、それ以上に、ルーテシアの護衛が出来るほど、

手の空いている人間は少なかった。



「使い魔を作るのはどうかな。恭也君、まだいなかったでしょう?」

「考えないでもないのですがね」



 恭也の魔法体系――リスティは多大な皮肉を込めて、テスタロッサ式と名づけた――はよ

うやく基礎理論が固まったところで、現在はミッドチルダ式、及びベルカ式の魔法の応用、

及び新規術式の構築を始めているところだった。



 使い魔作成の魔法もその研究の中には入っているが、元々が高度な魔法であるために、実

用化の目処は立っていない。本腰を入れれば一年で開発してみせるとリスティなどは豪語し

ている。それでも他の部署に比べれば驚異的なスピードなのだろうが、現状の問題を何とか

するためには、遅すぎた。



 頭を下げて頼めば、仲間の使い魔は協力してくれるのだろうが、アルフにもザフィーラに

も、護らなければならない主が既に居る。その守護を放棄してまで護ってくれとは、如何に

状況が切迫していても、恭也には言えなかった



 しかし、必要なのだ。ルーテシアを守護できる、強力な人材。四六時中張り付くことが出

来、襲撃されても対応の出来る魔導師。



 心当たりがないではなかった。



 だが、それは本当に最後の手段で、出来れば一生、顔も見たくない相手だった。



 打てそうな手は、全て打った。時間は限られていて、敵は待ってもくれない。手段を選ん

でいられるような状況ではないのだ。プライドを捨てるだけで目的が達成されるのなら、そ

んな物は捨てればいい。恭也にとって優先すべきは、ルーテシアなのだ。



 心が冷えると、急速に答えは纏まった。





「休暇を取ろうと思うのですよ」

「どうしたの? 急に」

「守護者に心当たりがありますので、管理外世界まで行ってきます」

「心強い知り合いがいるものね……どんな人?」

「そうですね……」



 視線を、中空に巡らせた。苦い思いが、恭也の心に蘇った。



「自らの信念に殉ずることのできる、強い人です。尤も俺は、彼女らのことがあまり好きで

はありませんがね」