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「ねぇ……やっぱりやめない?」



 ずんずん歩いていくひさ子に遅れないように歩きながら、岩沢は何度目になるか知れないこ

とを口にした。口調からはやる気のなさは滲み出ている。岩沢にとってこの状況が本意ではな

いことはどんなアホでも――例え野田であっても解ることだろう。



 彼に解るのだったら、この世界に来てから最も時間を共有しているひさ子に解らないはずは

ないのだが、彼女の頭の中には自らの好奇心を満たすことしかないようだった。



 寮と学校だけでほぼ全てが完結しているこの世界において、娯楽は自ら生み出すしかない。

それは歌であったり遊戯であったり人間によって様々であるが、どんな趣味嗜好の人間であっ

ても話題を引いて止まない娯楽がこの世界にはある。



 新しい人間の来訪だ。



 彼ら、彼女らがもたらす向こうの世界の情報は、この世界にいては絶対に得ることの出来な

いものだ。



 一高校生が知っている情報などたかが知れているが、自分達では知りえない向こうの世界を

知っている生き証人ならぬ死に証人である『新人』は、一時限定ではあるものの確実にモテる。



 ひさ子はその『新人』の情報を、彼がやってきて直ぐに遭遇したという日向から入手し、こ

うして『新人』のいるらしい保健室へと、岩沢を伴って向かっているのだが。



 意気揚々としているひさ子と対照的に、岩沢のテンションは低かった。文句も湯水の如く溢

れてくる。



「新人と話すなんて、いつでも出来るだろ? 何もこんなに朝っぱらから行かなくてもさ」

「ブームなんてどうせ一過性なんだから、さっさと楽しまないと損でしょ」

「一過性だって解ってるなら関わらなくても良いと思うけど?」

「それだとつまらない。あんただって少しくらいは興味あるんじゃない?」

「野田の奴と同じくらいにはね」

「それは……誘ったのは悪いことしたかな」

「……まぁ、ひさ子の言う通り、全く興味がない訳じゃない」



 本当にない訳ではない程度の興味だったが、控えめな表現のそれをひさ子は照れ隠しと受け

取ったらしい。人好きのする微笑みを浮かべると、勿体つけるような動作で岩沢に道を譲った。



 目の前には引き戸。ネームプレートには保健室とある。目的の場所、新人はこの扉の向こう

にいる訳だ。



「最初に新人を目撃する権利は譲るよ、リーダー」

「ゆりと日向が目撃したんだろ?」

「ガールズデッドモンスターの中では最初だよ。関根には自慢できる」

「なら最初から関根を連れてくればいいのに……」



 ぼやくが、今ここにいない関根のことを言っても始まらない。入る入らないとここで揉める

のは時間の無駄だ。新人にはあまり興味はないが、顔を拝むだけ拝んでさっさと部屋に戻ろう。



 そう結論を下し引き戸に手をかけた時、異臭が岩沢の鼻をついた。生前には縁がなかったが

この世界に来てからは頻繁に遭遇する匂い……死臭である。



 それが意味することは一つ。この引き戸の向こうには、死体があるということだ。



 ここは死後の世界で、存在する全ての『人間』は一度死を経験しているため、何をしても死

ぬことはない。首を刎ねられても身体を細切れにされても毒殺されても餓死しても、一定の時

間が経過すれば、元気な姿に戻るのである。



 しかしそれは、裏を返せば一定の時間は死んだままということ。死臭が意味するのは今現在

死体から元気な姿に戻っている途中、もしくはそれすら始まっていない状況ということだ。



 そんな状況の人間と意思疎通ができるはずもない。ただでさえ少なかった岩沢の興味はこの

時点で地に落ちた。



「よし、帰ろう」

「なんでよ。せっかくだから見ていこうよ」

「ひさ子、あんた悪趣味にも程があるよ?」

「時間割いてここまで来たんだ。顔くらいは見ていかないと割りに合わないよ」

「私は時間を割かされた立場なんだけどね」

「今度のトルネードで好きな食券譲るからさ、ね?」

「……カツカレー頼むよ」



 あくまで食い下がるひさ子に根負けし、死臭が漂う中意を決して保健室の引き戸を開け放つ。



 ドアの向こうは案の定の状況だった。清潔な場所である保健室の中に、ガクランを来た男子

生徒が血溜まりの中、大の字になって寝転んでいる。『死んでいる』のは言うまでもない。



「ありゃー・・・…こりゃ酷いわね。天使の仕業?」

「保健室にいる生徒を天使がここまでやる理由はないよ。NPCがやったとも思えないし……」



 服に血がつかないように気をつけながら岩沢は保健室に踏み入り、男性生徒の死体を検分す

る。



 これだけ流血してるのに、首から上にはほとんど傷がない。打撲痕にしろ裂傷にしろ、首か

ら下に集中している。



 ひさ子に言ったようにこれを天使やNPCがやったとは思えない。天使は校則違反をしない

限りはこちらに手を出してこないし、NPCに人間に危害を加えるような悪人はいない。



 やったとするなら人間な訳だが、これもまた岩沢には犯行に及ぶ理由が想像できなかった。



 新人は可能な限り引き込むというのがSSSリーダーであるゆりの方針で、これはメンバー

全員の知るところである。下手に攻撃してヘソを曲げられては意味がない。



 何しろ、一人がメンバーに加わるということは、それだけ既存のメンバーの負担が減るとい

うことだ。ゆり直属の部隊でも、物資を製造するギルドでも、岩沢たちが所属する陽動班でも、

人手はあるに越したことはないのだ。



 だが、現実として死体はここにある。天使やNPCが手を下したとは考えられない以上、実

行犯はSSSの誰かなのだろう。それも、ゆり直属の日向から情報を聞いた自分達と同じ程度

に耳の速さを持つ人間。



「誰だと思う?」

「切傷だし藤巻か野田じゃない?」

「椎名って線は?」

「あいつならもっとスマートにやるでしょ」



 なるほど、と岩沢は嘆息した。椎名は奇行が目立つが、意味のない闘争はしない。反面、男

子二人は短気が目立つ。特に野田は沸点が低く手が出るのも速いことで有名だ。得物も重いハ

ルバード。藤巻が持っているのは白木鞘の日本刀だ。それらの武器でどういう傷が付くのか把

握している訳ではないものの、眼前の死体の傷は深く抉るようにして付いている。



 野田だろうな、という結論に達したのは直ぐだった。



「気が済んだろ? ひさ子。もう帰ろう」

「んー……」



 死体の新人相手ではこれが限界だ。ひさ子はまだ遊び足りないようだったが、どうにもなら

ないのはアホにでも分かる。岩沢が促すと、ひさ子はあっさりと身を翻した。先に立って歩く

ひさ子に、足を速めて追いつく。



「巻き込まれ人間の義務として聞くけど、どうだった?」

「悪くない顔してたわね。SSSの中ではマシな部類に入るかも」

「よく見てたな、そんなの……」



 観察はしていたつもりだったが、顔の造りに意識は全く向いていなかった岩沢は、友人の言

葉に感嘆と呆れの入り混じった声を漏らした。



「顔ってそんなに大事かな」

「良いなら良いに越したことはないと思わない?」

「そりゃあそうだけどさ……」



 晩年とこの世界に来てからは何よりも音楽が大事だった岩沢には、その辺りの感覚がよく解

らない。ひさ子も大概に男らしい性格をしていると思うが、これで少女らしいところもいくら

か見受けられる。男の顔に興味を持つのも、その一環だろう。



「じゃあ、目が覚めたらあいつにちょっかいでも出す?」

「それは奴の中身を見てから決めるよ」

「異性問題でバンドに亀裂が入るってのは良く聞くよ。個人の問題に口を挟むつもりはないけ

ど、リーダーとしては付き合うなら付き合うでで清い交際をしてもらいたいもんだね」

「清い交際ってロックじゃないわね」

「歌があれば良いの。酒も煙草もセックスも、もちろん薬もいらない」



 心からの岩沢の言葉に、ひさ子は笑みを返した。冗談、とでも思われたのかもしれない。薬

とセックスはともかく、酒と煙草はSSS内部でも密かに流通している。まだ高校生なのだか

ら、と言う人間は一人もいない。むしろ、もう高校生なのだから、という考えのものがほとん

どだ。どちらにも一度も手を出したことがない人間は、この世界にはいないだろう。



 ひさ子の歌う鼻歌を耳ながら、新人が倒れたままの保健室を振り返る。



 外から人間が来たのは久し振りだ。ゆりは既に勧誘をしたが、まだ返事は貰っていないと聞

いている。仲間になるかどうか、今の時点ではまだ未知数だったが、仮に仲間になるとしたら

早急に彼をSSSに慣れさせるにも、難易度の低い作戦が実行されるだろう。おそらくはオペ

レーショントルネード。



 そうなればガルデモの出番だ。食堂近辺でゲリラライブ。盛り上がりの最高潮で突風が吹く

のは苛立たしいが、あの風でひらひらと舞う大量の食券は中々に壮観だ。そんな中で歌うのは

最高に気持ちが良い。



 その快感を味わうためにも、先の死体には仲間になって欲しいと思った。彼個人に興味はな

いが、歌う理由を作ってくれるのならそこには恩義がある。溜め込んでいる中から好きな食券

を選ばせるくらいはしてやっても良いかもしれない。



 この世界において食事は、最高の楽しみの一つなのだから。



「あー、ひさ子。カツカレー、忘れないようにね」

「解ってるよ。リーダー」



 苦笑するひさ子を横目に見ながら、今晩の曲目を考える。気づけば岩沢の頭の中から、新人

のことは消えていた。












中書き
テレビ放送がまだ終わっておらず、設定が全て判明していないため隠しページにアップするこ
とにしました。タイトルもまだ決まってません。
一応続く予定ではありますが、良くも悪くも試験的なお話になっておりますので、そういう方
向でお楽しみください。
現在の予定では音無主人公の岩沢ヒロイン、ひさ子がサブとなっております。
今後のアニメの展開次第ではユイ以外のガルデモハーレムになるかもしれません。