何時からだろう?
こんなに引かれていったのは……

かなり前の気もするし、ほんのついさっきの気もする……
おかしいな……
好きな人が出来たら、一歩引くはずだったのに……









『恋慕 〜出会い〜』











リリアン女学園高等部を卒業した後、私はそのまま大学に進学した。
まあ、まだまだ祐巳ちゃんたちのことをからかい足りない面があるのは事実だし、何より
私はリリアンが好きだった。

祐巳ちゃんたちにちょっかいを出そうと思ったが、何かと忙しそう。
まあ、私たちの代も色々とやることがあるのは分かってはいたが、こうチョッカイが出せ
ない状況だと面白くない。

ある日の日曜日、暇になった私は母の車を借りてちょっとしたお出かけをした……。
まあ、このお出かけが運命の悪戯を起こしたんだけどね。


私の目の前にあるお店『翠屋』
雑誌等でも何度か紹介され、口コミでもかなりの評価を受けているお店で、以前令が本物
のパティシエの作る洋菓子が美味しいとか言っていたし、私としても一度訪れてみたいと
思っていたから今日来てみたんだが……





……店内は凄い混みよう。
特に女学生がたくさんいるね〜〜。

周りにいる若い女子高生などを目で追ったりしていると結構面白い。
まあ、こんなことしているから祐巳ちゃんに親父なんていわれるのかな?
なんて思っているとカウンター席が空いたので店の働いていた唯一人のウエイターに案内
された。

「カウンター席でもよろしかったでしょうか? 」

っと、いけないいけない。考え事をしていたから注意が逸れていたかな?
声を掛けてくれたウエイターと思われる人物の顔を見るために私は顔を上げた…。

「あの、お客様? 」

声を掛けてきた人は私とそう、たいして年の離れない人だった。
サラリと揺れる黒い髪の毛と、深く澄んでまっすぐに見詰めてくる瞳が印象的で……
思わず吸い込まれそうになる錯覚を覚えた。

「あ、ああ、うん。カウンター席で良いよ。一人だしね♪ 」

ワザとはぐらかす様にそう私は言ったが、男の人は何とも思わなかったのか軽く頭を下げ
た後で私を席に案内した。

その後姿を見て思ったが、綺麗な歩き方の人だな。
なんと言うか体のバランスが取れているといったら良いのだろうか……。
スッスッと直線的に歩く姿から私はそう思えた。

「こちらになります……。」

微笑を浮かべているわけでもなく、愛想が良いわけではないが……なんだか引かれる。
イスを軽く引いて私が座り易くするとその男の人はどこかに行ってしまった。

すぐに男の人が戻ってきたので、そっちに目をやると盆のようなもので水とお手拭を運ん
できたようだ。

『コト』

無言で水を置くと私の目を見て何かを聞いてきた。
その真っ直ぐな瞳が、まるで私の中の何かを見ているようでなんだかくすぐったい気持ち
になった。

「ご注文の方がお決まりになりましたら、お呼びください。」

今時、珍しいほどに真摯な態度をしているこの男の人に、私は興味を持ったのか
つい呼び止めてしまった。

「ごめん。ココ来るの初めてだから、何かお勧めがあったりしたら教えてくれないかな? 」

そういうと、もちろんその男の人は何か考えているのか、少しだけ眉間にシワがよるよう
な表情をし始めた。

「そうですね、お客様が洋菓子類を目当てにこられたのなら私としてはシュークリームを
お勧めします。もしお食事をなさるためでしたら翠屋特製サンドイッチがお勧めですね。」

それだけを言うと、男の人はどこかに行こうとせずに私のそばに居た。
もちろん、それは私が注文を決めるのを待っていてくれているんだと思い、少し考えてか
らその場で注文した。

「それじゃあ、シューとアイスコーヒーを頼もうかな? 」

「シュークリームとアイスコーヒーがおひとつですね。少々お待ちください。」

そういうとクルリと私に背を向けて行ってしまった。
しかし、なんだか店の様子が気になってちょっとだけ周りを見てみると女の子たちがさっ
きの男の人の方を見ていた。まあ、結構カッコいいし誠実そうだしね〜見ちゃうもんかな?

ってか、このお店……男の人が居ないような気がするけど気のせい?
厨房の方にはいるのかな?
そんなことを思っているとすぐさま注文の品を持ってきた。もちろんさっきの人が。

「お待たせしました…。こちらになります。」

シューとアイスコーヒーを置くと男の人は他の接客に移るためかすぐさま行ってしまった。
しかし、ぶ厚い背中だな……。


それから私は置かれた品を口に運んだが、なかなかどうして。
かなり美味しかった。
余り甘党と言えない私が、甘いものでここまで褒めるのは珍しい。
シュークリームは中のクリームが混ざり合ったのが独特の美味しさを引き出しており、そ
れと合わせるかのように少々苦味の強いコーヒーが、後味をスッキリとさせてくれている。

大満足で終わったこの店だったが、いざ支払いをしようとしたときに驚いた。

「ありがとうございました♪ 850円になりますね♪ 」

空いた口がふさがらないとはこのことか……
目の前にいたのは、世界的に有名なフィアッセ・クリステラがレジをしているのだ。
こりゃ驚くだろう。私は思わず声を掛けてしまった。

「あの、フィアッセ・クリステラさんですよね? 」

「うん、そうだよ♪ あ、サインとかしないからね〜。あくまで私は一人の従業員だから♪」

にこやかな表情でそんなことを言う…。
しかし、凄いお店だな〜〜フィアッセ・クリステラを従業員にするなんて。
でも、今の口ぶりからだと、かなり前からここの店にいるのかな?っと思った私は一つの
質問をした。

「あの男の人誰ですか? 」

そっと指差し、私のことを接客してくれた黒髪の似合う男の人のことを聞いた。

「あ〜〜。恭也のこと? あなたも恭也のこと、好きになっちゃった? 」

私の表情を下から見上げるようにして覗き込むその瞳は子悪魔のような微笑をたたえてい
る気がするのは気のせいだろうか?

「いや、そういうことじゃなくて…。」

「あはは♪ ごめんごめん、恭也ってもてるからちょっと勘繰っちゃって〜。
でもね、あの子かなり人気あるんだよ♪ 」

茶目っ気たっぷりな表情をして私にそんなことを言うフィアッセさん。からかうことはよ
くあるけど、からかわれるのは久しぶりだな……。
そんなことを思いながらも別に癇に障ったわけでも腹が立ったわけでもなかったので、そ
のまま会話を続けた。

「へ〜〜、あれで……。愛想がよくないのにですか? 」

思ったことを素直に口にした私。一方そんなことを言われたフィアッセさんはと言うと…。

「あれでもかなり表情が柔らかくなったんだよ〜〜。それに恭也は強いし、何より優しい
んだからね〜〜。」

プゥと頬を膨らませながらそんなこと言う。
その表情でも怒っているはずなんだが、可愛いとしか思えない。
そんなことを思ったがそろそろレジに他の人が来そうなので、話を切り上げた。

「それじゃあ、私はこれで。美味しかったですよシューとコーヒー。それじゃあまた。」

それだけ言うと店から出て車に乗り、駐車場から出た。
それから色々な所をまわってから私は満足して、自宅へと戻った。


家に帰ると、いつもどおりにお風呂に入り、ベッドへともぐりこんだ。
そして、今日一日のことについて振り返ってみるとどうしてもあの、恭也と言う人のこと
が脳裏をよぎった。

真摯な態度

黒い髪

真っ直ぐな瞳

大きな背中

働いている時の横顔


何でだろう、こんなに思い起こされるのは……。

『あなたも恭也のこと、好きになっちゃった?』

唐突に思い起こされるフィアッセ・クリステラの言葉。
正直分からない。自分の気持ちが……。
だって、今までの私の恋は………そう、栞に感じたときと余りに掛け離れている。
あの時の私は栞の中の白いもの……穢れのない彼女の無垢な心と尊い信仰心。
彼女の心に触れて癒されたい。いや、浄化されたい。

でも、恭也と言う人に感じたのは違った。
彼に感じたのは暖かな黒いもの……
何処までも包み込み、癒してくれるそんなイメージ。
深みのある瞳。あの瞳を眺めていたいと思った。
そう、今は……。
これから先のことなんか分からない。ただ、今だけは眺めていたい……。

考えがまとまった頃には自然と眠気に襲われて闇の中へと心が引き込まれた。


それから数日後。

私は昼過ぎに起きると、服を着替えた後ブラブラするために外に出た。
今日も翠屋に行こうかと思ったが、肝心の足である車は母が乗っていったため今日は使え
ない。

仕方なく今日はブラブラとしよう……。
まあ、バイトでもしていれば忙しいのだろうが生憎今はしていない。
別に禁止はされていないし、やっても良かったのだが生憎と近くで募集している所が無か
ったんだな、これが。

まあ、そんなこんなで適当に街の中を歩きながら居た。
しかし季節はもうじき夏入ろうとしている。今日は余りに暑かったため近くの店にちょっ
と入って涼もうと考えた。
そこで入ったのが余り最近は行っていない本屋。

中に入って適当な本を立ち読みしようする。
ふ〜〜ん、こんな本なんか読む人居るのかな? そんなことを考えながら雑誌の所にある
とある本に手を伸ばしかけた。
『盆栽の道のり 君はココまで極められるか? 』
と言ったタイトルの本。
しかし偏った本だよな……。こんなの読むのは、おじいちゃんぐらいなもんじゃないのか
? などなどと思いながら、パラパラと中を覗いてみたが本当に中は盆栽だらけ。

適当にページを捲りながら見ているとちょっと気になったところがあった。
それは、まあ読者からの投稿された作品によるランキングのようなものだったんだが、そ
こに書いてあったのは…

『○○県海鳴市在住 高町恭也さん(20)の作品』

と書いてあった。

? 海鳴市で恭也?
ちょっと待て、あの人なのか?
そう思い、顔写真か何かが載っていないかと思い探してみると案の定あった。
軽く微笑みにながらその手に持つは盆栽。

………なんで盆栽?
ますます分からなくなってきた……
思わず頭を抱えて思いっきり悩もうとしていたとき、背後から静かな声をかけてくる人が居た。

「ごきげんよう、お久しぶりですわね……佐藤聖様。」

掛けられた言葉、そしてその声を聞いて私が振り返るとその先に居たのは……。

「まあ、そうおっしゃるあなたは鳥居江利子様ではございませんこと?お久しぶりですわ。」

まるで狸の化かしあい。それに場所も場所だ。
周りで立ち読みしていた客の視線が少々鬱陶しくて、手にしている本をとりあえずはレジ
で清算し、無言のまま江利子と一緒に外に出た。

外に出てから適当なところまで行ってから『何処かで話さない?そこの喫茶店辺りでも』
と当たり障りのない感じで声をかけると、彼女が頷いたので私はとりあえず、目の前にあ
る喫茶店に二人して入っていくのであった。


「久しぶりね、こうして聖と会うのも。」

「そうだね…、あんまり変わりがなさそうに見えるけどね。」

口元に笑みを浮かべながら聞いてくる江利子に対して私は相槌を打つように返したが

「そうね……。あんまり山野辺さんと進展してないからそう見えるかな?
それにしても変わったって言ったら聖、あなたの方じゃない?なんだかどこか落ち着きが
ない感じ。」

ちょっと図星を指されたせいか、私はちょっとムッとしたが腹を立てても仕方ないので、
正直に話し始めた。

「うん、まあ昨日から頭の片隅から忘れられないことがあって……。」

「へ〜〜、あのものぐさな聖からそんな言葉が聞けるとは思わなかったわ。」

ポツリともらすように口にすると江利子はズイッとこちらに体を寄せながら興味津々とい
った顔でいた。
ってかね……。

「その台詞、江利子に言われたくない。」

ついつい口を尖らせてしまう。

「フッフッ……。それで、何かあったの?」

江利子の奴、あっさりとスルーしてくれちゃうし……。話すのやめようかなっと思ったが、
まあ一通り話してく。

「昨日なんだけどね……。以前令が進めていた洋菓子店にいったんだよね。」

「あ〜あの、翠屋だったわよね。あの子が猛烈に行きたがっていた。」

やっぱり令のお姉様だけあるわね……ちゃんと覚えてる。
そういえば、江利子は行ったのかな?翠屋に
っと考えがずれてるずれてる。

「そこでさ、まあ男の人が居たの。」

「へえ……男ね〜。あんなに祐巳ちゃんとかに構っていたあなたが、普通の男を意識する
とは思えないけど……。」

『当たり』あの人はどう見ても普通の人じゃない
表情が少ないし、でもそのくせなんて言うか……体で表現している感じっていうか……。
それにあの視線……そして、瞳

でもってまあ、ルックスも良かったかな?
あんな感じの人なら恋人の一人や二人いるのかな?

「聖……ちょっと聖、自分の世界に浸らないでよ
続き話してくれないと分からないでしょ。」

「あ〜、ゴメン、ゴメン。それから……。」

そこからは適当に部分部分はぐらかすようにして話し続けて、不意に江利子のほうを見る
と、やっぱりというかなんと言うか……。ものすご〜く、嫌な顔をしていた。
あ〜嫌な顔……って言うと、語弊があるのかな?こう、人の話している内容が面白くて面
白くて仕方ない時に現れる江利子特有の微笑み。
私が勝手につけた『すっぽんの江利子』のあだ名は伊達じゃないのか。

「無愛想で、カッコよくて、そのくせ細やかな気配りのできる人?
確かに普通じゃないわね〜。ねえ写真とかないの?」

はぁ〜、やっぱ江利子は江利子だわ……。
諦めの心境に入ったのか、手にしていた雑誌
『盆栽の道のり 君はココまで極められるか? 』を広げて江利子に見せる。
見せてから、この人といって指差してから江利子のほうを見てみると、小刻みに肩が揺れ
ていた。

「ぷっ」

「ぷ?」

「ぷっあはっはっはっはっはっは」

物凄い爆笑をする江利子を横目に身ながら私は頭を抱えたくなった。
人が少ないとはいえ、ここは喫茶店。当然従業員や客がいるわけで……。

「はいはい、面白いのはよく分かったから、笑うのやめて。周りから注目されてるよ。」

「いいわね、山野辺さんに会う前にこの人に会っていたら物凄く迫ってたかも。」

あっ……江利子の性格なら確かにありうるか。
こんなに面白そうなものをこれが放っておくわけがない。
でも私は面白くない。何故だか面白くない
それどころかなんだかちょっとイライラしてくる。

「あ〜聖。あなた、祐巳ちゃんみたいに百面相してるわよ?」

「えっ。」

慌てて自分の顔に手を当てて押さえ込む。
そんな私のことを見てさらに江利子は面白そうにしながらいた。

「ふ〜ん、聖にも春が来たのかな?」

「ちょっと何言ってんの。私は……。」

江利子が突然物凄いことを言うものだから、私は止めにはいるが……

「聖、あなた一度自分の顔を鏡で見るなりした方がいいわよ…。
あなたの今の顔、物凄く赤くて、初心な表情しているわ。」

赤い……
確かに熱っぽく感じはするけど、それほどとは思えないんだけど
それと初心ってどう、何が言いたいわけ?

「まっ、あとは自分で自分の気持ちに気がついてね。私これから山野辺さんとデートだから。」

「はいはい、ご馳走様。」

そういって私はひらひらと手を振って江利子のことを見送った。

「何のかんのと言って、頑張ってるみたいじゃん。」

嬉しそうに表情を崩しながら喫茶店から出て行く江利子の背を見送ってから、はたと気が
着いた。

「江利子の分の勘定、私持ち?」




まあ、そのあとはブツブツと文句を言いながらも、江利子の分の勘定も私が払い、それか
ら電車を使って海鳴にいった……

出た時間も時間だったし、ついた頃にはもう夕方になっていて段々と景色が暗くなろうと
していた頃で

「何で来ちゃったんだろう。」

車がないんだし、それにこんな時間に一人で居ても面白いことなんて何一つないはずなの
に、いつの間にか私はここに来ていた。

また、翠屋に行こうと思って、商店街のはずれかな?そこからトボトボと歩いているとほ
んのすぐ先に、数人の男たちがだらしなく地面に座り込みみっともない格好でタバコをふ
かしながら話し込んでいた。

「だ〜か〜ら〜、女だって。遊べるやついねえの?」

「うっせ〜な、だったら自分で探してこいや。」

「はぁぁ、好きだね〜、おたくらも。まっ、俺も嫌いじゃないけどね。」

かかわりたくないタイプの奴らばっか。
とにかく、無視してさっさと通り過ぎようとすると……

「いるじゃ〜ん、可愛い子。なあ、あんた一人だろ?俺らと一緒にどっか遊びに行こうぜ。」

「結構です、そういったことに興味ありませんから。」

堅物な女を演じればこんなやつら、すぐに諦めるだろう。
そう思った私は普段ではありえないほどのつんと澄ました表情をしてやり過ごそうとした
んだけど……。

「いいね……あんたみたいな女。屈辱と恥辱に汚してみたくなる。」

「むぐっ……ぅ……。」

目の前の男を意識しすぎていたせいかな。
いつの間にか私の後ろに立っていた男は耳元でそう囁くと何かを私の口元に押し当ててきた。
まるで私の体全体を絡め取り、何かに引きずり込もうとするその声は、私に鳥肌を立たせる
には十分なものであった。
でも、そんなことを気にしていられるほど、余裕がなくて暗闇の中に落ちそうになる意識を
何とか繋ぎとめようとしていたけれど、だんだんと意識が遠のいていく。

ああ、不味いことになったな……。この男たち、見るからに危なそうだしどんな目に合わさ
れるか……。
これから起ころうとしている、余りに大きな恐怖に対して、どうにも出来なくて
歯がゆかった………。

男に生まれたかったな……。そうすればこんな目にあうこともなかっただろうし、それにあ
の人とも、友達になれたかもしれない……。
薄れ行く意識の中でも、やっぱり考えるのはあの恭也という男の人のことで
自分で自分のことを不思議に思いながら、ついに意識が切れようとしたそんなとき……。

「邪魔だからどいてくれないか?」

私の耳に、強く残る声が聞こえてきた。
別に大きい声なわけじゃないのにいつまでも響いて止まるその声。
あなたは誰?
そう思い、首を動かしてせめて顔を見ようとした時に、ついに私は眠ってしまった。






かあさんに買出しを頼まれ、大量の小麦粉や、砂糖、バニラエッセンスなどを両腕に抱え
ながら翠屋へ戻るために一人歩いていると、なんだか知らないが数人の男たちが、一人の
女の人を囲んでいた。

あからさまに怪しいが、下手に刺激するのはまずいと思いながらも、俺の口からはいつの
間にか相手を罵るように言葉を放ってしまっていた。

「ああん?何のつもりだ?こっちはこれからお楽しみしようとしてんだ。てめえがどっか
行け。」

あからさまな、文句をつけて俺に掴みかかる男。
小さくため息を吐いてから俺は忠告をする。

「悪いが、今両手がふさがっていてな……。手加減が出来んぞ?」

「ああ?バカかてめえ!!」

苛立ちげに叫んだ後、俺に殴りかかろうとする男。
その、ハエが止まりそうなほどに遅く、技も力もない拳打があと少しで届こうとしていたと
き、ほんの少しだけ俺の右半身がぶれた。

『ドゴォ』

なかなかな音を響かせながら、俺の放った右ハイキックがものの見事に決まった。
まあ、手加減がしてあるし派手なのは音だけで、的確に蹴り込んだためか、倒れた男は失神
していた。

「お前!!お前!!」

見事に失神している仲間のことを思ってか、はたまたただ頭にきただけなのか、叫び声を上
げながら突進してくる二人目。

何か叫び声でも上げているのか、少々うるさい男に対して面倒だと思いながらも手加減をし
た足刀を鳩尾に放つ。
間違っても、いつも美由希に対して行っているように徹や貫をこめたりしないように気をつ
けてだ。下手をすれば素人など即死するからな……。
そして、やはりあっけなく気を失い口から泡を吹いている。

「おい、お前。」

俺のことを睨み付けてはいるが足がすくんで動けないのか、その場に固まっていた最後の一
人に対して俺は命令口調で告げる。

「このバカ二人を連れて帰れ……。
それと、こんなことをしているのを俺の目の前でして見せろ………殺すぞ。」

少々視線に殺気を含ませていると男は脅えたような表情をしながら仲間の二人を引き摺りな
がらその場をあとにした。




………そして、その場に一人残された少女。
いや、少女と言っていいのか?どう見ても俺と同じくらいの年だしな。

コンクリートに倒れているというか、寝ているというか。

「大丈夫ですか?もしもし……。」

軽く体を揺すりながら意識の有無を確かめる。
小さく呼吸音が聞こえて気はするが、どうやら完全に意識がないようだ。
薬を使って眠らされたのだろうと思考が走った後、今度はどうしたものかと頭を抱えたく
なる。

このまま放っておくわけには行かないし

「仕方ない、家に連れて行くか……。」

ひとまず両手をふさいでいるスーパーの袋を下ろし、彼女の体を背中に背負う。
軽い彼女の体を背負ってから袋を指に引っ掛けるようにして持ち立ち上がる。
さて早く帰ることにするか……

そんなことを考えながら俺はひとまず家路を急いだ。







管理人からの言葉

タカさんから頂きました。ありがとうございます。
マリ見ての聖様とのクロス……うちに寄贈していただいた作品の中でクロスは初めてな
んじゃないでしょーか。私が白薔薇党なのを覚えていただいていたそうで、感謝の限りで
す。


そして、この作品は連作とのこと。続編をお待ちしています。