「…………左」

「りょーかい」

「…………ああ」

「せーの」

 …………オォン!

 また一つ、死ぬ思いでカーブを曲がる。


「…………なあ、高町」

「なんだ?」

 ひたすら面倒くさそうにそう返してくる親友に、赤星は疲れきった声で言う。

「このバイクに四人乗りというのは、法律というかそれ以前に、物理的に無理があると思うんだが」

「ああ。同感だ。激しく同感だ」

「科学的に説明できないものに追い立てられてるんだし、もうちょっと頑張ろうよ」

「…………なんでこんなことになったのかしらねー」




 そう。藤代、赤星、忍、恭也の順番で、赤星のバイクに四人で乗っているのだ。

 そして、その後方からなにやら、獣の輪郭を持った霧のような煙のような、なんだか解らないものが
迫ってきている。




「…………これは、あれかな。さっき倒したゾンビの呪いかな」

「…………忍、時と場合を考えて喋れ」

「…………もしそうだったら、あのガンシューティングは二度とやらない」

「…………はぁ。面倒くさ……」




 放課後。いつもの四人で遊びに行った帰り道は、平均時速65キロの鬼ごっこ。

 終わりはまだまだ、先の話。





















とらいあんぐるハート3 Side Story

――――『一緒に遊ぼう!』――――

――――『放課後カーチェイス!〜37分25秒の鬼ごっこ〜』――――





















 流体力学と機械工学に裏打ちされた流麗なバイクのフォルム、それを一撃で台無しにする寿司の配達用の
荷台が、今はこんなにも心強い…………恭也は自分の座っている場所を撫で、自嘲的な思考にため息をつい
た。赤星もそれに続く。




「はあ」

「はあ」

「ため息ばっかりついてても仕方ないと思うよー?」

「…………溜息吐くしかない状況でもあると思うけど」

「…………左、曲がるぞー」




 また一つ、四人一体となって体を傾け、カーブを曲がる。

 はっきり言って曲芸も同然だが、このメンバーの運動神経、バランス感覚なら、集中力こそ要るものの不可
能ではない。




「…………ところで藤代さん。今の今まで言い出せなかったチキンな俺からお願いがある」

「ん? なに?」

「…………鞄を前に回してくれ」




 バランスの問題で、藤代は燃料タンクの上に、進行方向に対し後ろ向きに座っている。頭は赤星の視界を確保
するために、赤星の肩に顎を乗せている形だ。すると必然的に、藤代の胸が赤星の胸板で柔らかく潰れることに
なり――――ぶっちゃけ、赤星はいろんな意味でヤバかった。感触とか、匂いとか、耳元の囁き声とかが。




「は? ……ああ。減るもんじゃないし、別に気にしなくて良いよ。ウブなネンネじゃあるまいし?」

「むしろそうあってくれ、頼むから」

「はっはっは。というか確信犯だしね私。存分に動揺してもらえると嬉しいよ?」




 位置的に赤星からは見えない藤代の顔は、そのなんでもないような口調と裏腹に、僅かに上気していた。忍は
気を聞かせて恭也の視線を遮る。

 ともあれ、赤星は情けない声を漏らす。




「…………高町ぃ。頼むから何か打開案を出してくれ。このままだと事故る」

「……だそうだ。忍、どうだ?」




 忍は恭也の肩越しに後ろを振り向いて。




「…………バリバリ追ってきてるよ。……ていうか速度が上がってる」

「というか、私にも見えるんだけど」

「かなり強力なものか、そういう性質のモノなんだね」

「……おーい、なんでもいいから解決策を出してくれ。さもなきゃ高町、お前降りて神速で屋根とか伝って逃げ
ろ」

「無茶言うな。俺の膝を砕く気か」




 そっちこそ、膝の故障がなければそうしたとでも言う気か。




「…………でも実際、どうする?」

「そーねー…………」




 藤代が考え込む。




「まず、何故私たちが追われているか」

「…………恨みを買う覚えはないが」

「俺は……ないわけでもないが、悪霊よりは黒服だろうな」




 忍は自分の鞄の中にある、叔母のエリザから無断で借りた魔道書(グリモワール)「エメス・タグ」のことを考えて、




「私も思いつかないなぁ」




 いけしゃあしゃあ。




『ヨコセ…………ヨコセェェェェ!!』



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」




 ちなみに、「エメス・タグ」は魔術人形“ゴーレム”に関する魔道書である。

 ノエルを魔術の方向からバージョンアップできないかと借りてきたのだ。




忍はしばし何かを思案し、何かを決意したように頷いて、




「だって。取り憑く気だよ、絶対」




 いけしゃあしゃあ。




「…………さすがに洒落にならんな。……忍」

「うス」

「殺れ」

「っス」




 おどけながら敬礼し(空手じゃないのか)、もぞもぞと体勢を変える。恭也もそれを手伝う。

 数秒ほど間があり、忍は前の藤代と赤星のように、恭也に向き直る形になる。




「失礼しまーす♪」

「ああ」




 悪戯っぽくニヤけた忍だが、恭也が素早くリュックを前に回すのを見てぶーたれる。




「…………ちぇー。流石にガードが硬い……」

「女の子がいう台詞じゃないぞ、月村…………」




 声だけでも何があったか解る赤星は呆れたような声を出すが、忍はそれを華麗に無視。




「じゃ、やりますか…………」




 すぅっ、と、忍の眼が紅くなる。




「――――黄昏の紅茜より来たれ、夕闇の住人たる無形の狩人。理にして命、則にして律、魔なる法の名の下に、
我は囀り囁かん。顕現の韻律たる深紅の祝詞――――朱影狗操!!」































「………」

「…………」

「…………」

「…………てへ♪」

『少しは悪びれろっ!』




 結論から言うと、状況は悪化した。




「ああああ、敵が増えたぞ!?」

「いやー、まさか術の制御を奪われるとは思わなくてね?」

「だから少しは申し訳なさそうに言えっ!」

「…………あーあ、面倒くさいったら」




 恭也はため息をつきながら背後を見る。




『キシャアアァァァァッ!!』




 見なかったことにした。




 忍が放った紅い複数の人影が、いやに綺麗なフォームで全力疾走しながら追ってくる。かなり怖かった。




「ああ…………どっかで見たとおもったら。森ガンプ走法だ」

「なにを暢気な」

「いい加減、藤代にまともな反応を期待するのはよせ、赤星」

「ダメだ。どれほど時間がかかっても、俺は藤代さんを真人間にすると誓った」

「…………ねえ希ちゃん。穿った捉えかたしていい?」

「酷く不愉快で面倒くさいことになりそうだから却下」

『?』




 鈍感二匹は「穿った捉えかた」の意味が解らず、首を傾げる。




『…………カァエェセェェェェエ!!』

『…………』




 人影を従えるように先行しながら、輪郭は尚も追ってくる。




「はぁ……他の術は?」

「夕方に使えるのはあれしか覚えてなかったりするんだな、コレが」

「使えない…………」

「…………はぁ」




 藤代は赤星の肩の上で、某たれぱんだ並みにダレながら(眠くなってきた)ため息を吐き、しかしふと、




「…………ねえ、今何て言った?」

「他の術は?」

「夕方に以下省略」

「月村は役立たず」




 藤代はそうじゃなくてさ、と溜息を吐き、




「あの輪郭。今、“返せ”って言わなかった?」

「お」

「あ」

「ああああああははははははっはぁはは? そんなこつ言ってねぇべさ?」

『何を隠してる貴様』




 綺麗にハモった。




「やだなぁ何にも『放り出すぞ』…………はい、ごめんなさい…………」




 しょんぼり忍ちゃん、自白開始。







 …………しばらくお待ちください。







「叔母さんのところから持ち出した魔道書の」

「トレジャーキーパーという番人のようなもの」

「それがアレか」




 忍は三人の口調の、恐ろしく平坦な音色にビビりつつも、




「あああああのね、ホラ、恭也はこないだ聞いたよね? メンテナンスの話。どうせ時期的にそろそろ全身換
装しなくちゃいけないから、ついでに開発中の魔力付加武装を入れちゃおーかと思ってね? その資料を」

『留守だった叔母さんに無断で持ち出したと』

「う、うん。エリザ鉄砲玉だから、事後承諾で許可貰ってる書庫からなんだけど、何冊か封印されてる書籍もあ
ってね? もう言ったけどエリザは連絡つかないし、スケジュールも修正難しいから、ええいやっちゃえと力技
でキーパーもドツキ倒して――――」

『どうやらそれに失敗してたらしくこの状況と』

「はぃぃ」




 しゅん、と肩を狭める忍、それは本当に申し訳なさそうで、世の大抵の男性なら一も二もなく許して




『降りろ』

「あああああああああ!?」




 …………この二人は例外だったようだ。




「とっ、友達を見捨てるの!?」

「自業自得!」

「……身から出た錆だ」

「いやホラ! 一蓮托しょ『ああ?』はうっ、ごめんなさいぃ!」




 藤代はため息をつき、




「…………雉も鳴かずば撃たれまいに」

「…………ぎゃふん」

「……はぁ。まあとにかくさ、この場は現状の打破だけ考えよう」

「希ちゃん! やっぱり希ちゃんは親友だよ! いやいやむしろマコトの友と書いて」

「また後で剣道部伝統のアルティメット説教でもやればいいんだし」

真友(うらぎりもの)――――ッ




 アルティメット説教なるものを詳しく知っている忍は思わず叫ぶ。




 アルティメット説教…………それは、剣道部の先輩から後輩に脈々と受け継がれてきた伝統の業である。

『時間無制限・アクロバット正座』を初め、『六時間耐久・小言ループ』、『無限座禅・寝たら殺せ』、『道場
掃除・お百度参り』、『召喚魔法・剣道部OB』、『百人組手・タコ殴りエディション』などなど多岐にわたる。

実は新任の男子・女子剣道部部長は、アルティメット説教の新しい方法を考える義務があるため(つまり一年
毎に二つ増える)、今紹介したものの他にもまだまだあるのだが、多すぎるので割愛させていただく。

ともあれ、アルティメット説教とは、どんなハネっかえりも一撃で従順になる必殺(?)の制裁法であり、そ
してこれは冗談でもなんでもなく、部員の半数以上の同意があれば速やかに行使される。赤星が知っているだけ
でも、過去6人の部員が制裁を受けた。




『成程、その手があった』

「嫌ぁあぁぁぁああぁぁぁぁ!?」

「オススメは“言い訳無用・さざなみ寮ピンポンダッシュ連続十回”かな」

「死ぬ死ぬ! 四回目ぐらいで殺されるってば!?」




 リスティなら電撃のち逮捕、愛なら泣かれるかもしれない、耕介ならまだマシか。最近はオールラウンダー榛
原智恵あたりに喰われることも――――ないとは言えない。

 そして“海鳴の黒い風”、徹夜明けの真雪が居た日には眼もあてられない事態になるだろう。




「いや、ここは“翠屋店長の年齢調査・直接聞く”だろう」

「…………(ガタガタブルブル)」




 …………数あるアルティメット説教メニューでも最悪の部類に入る項目である。

 詳しいコメントは避けるが、控えめに言って生き地獄。




「容赦ないなお前…………“伝説の防具・着用30分”あたりでいいじゃないか」

「発狂するよあんなの!」




 剣道の防具というものはよほど気をつけても汗臭く、そして伝説の防具とは剣道部の設立当初からあるという
年代モノの防具である。その臭い(匂いじゃないところがミソ)は凄まじいとしか言いようがなく、倉庫にただ
置いておくだけで阿鼻叫喚を引き起こすので、専用の箱の中に厳重に封印(保管ではない)されている。




「ごめんごめん、ホンットにごめん! だから“翠屋協賛・奢り地獄”あたりで許してー!」




 本当に話が通してあるので、この場合に限りツケが利くという親切設計。まあ忍の場合はポンと払ってしまう
だろうが。




「おかわり自由?」

「藤代さん、意地汚い」

「全員に土産も持たせて売り上げに貢献しろ。それならいいぞ」

「了解了解! どんとこい! だから許してー!!」




 では話もまとまったようなので。




「…………じゃあ、どうする?」

「赤星、ガソリンは夜までもつか?」

「無理だ。俺がな」

「気合だよ赤星君」

「元凶が言……ぐあ、頼むから動かないでくれ…………」

「ということは、まず自力では無理か。逃げ切れるとも思えんし…………」

「援軍だね。那美あたりがいいかな」




 ごそごそと携帯を取り出してメモリを呼び出す。




「…………もしもし、那美ー?」

「…………誰?」

「ああ、俺たちの一年後輩で、高町の友達の退魔師さんだ」

「…………高町君、意外と交友関係……意外な交友関係広いんだ」

「…………うん。わかった。よろしくねー」




 忍が携帯を切る。




「どう?」

「もうさざなみ寮にいるんだって。ここからもう近いし、そこまで引きずっていこう」

「…………まあ、あそこのメンバーで出来ないことなど何もないか」




 恭也は遠い目をした。

 なんとなく哀愁が染み出ていたのは気のせいだろうか?




「よし! 行くぞ!」

「必死だな赤星」

「そんなにヤバイんだ」

「私はまだこのままでも良いんだけどね……」

「うおおおおおおおお!」




 いろんなものをその雄たけびで誤魔化し掻き消し無視しながら、赤星は目いっぱいにアクセルを開けた。






















「那美! もう目の前だけど、準備はいい!?」

『はい、耕介さんが待機してます!』

「オッケ、確認するよ! タイミングはこっちで取るから、いつも通り掛け声頂戴ね!」

『はい!!』




 さざなみ寮に続く長い坂を全速で疾走る。しかし四人分の加重があり、さらにある程度速度を確保しないと
頭から食われそうなため、バイクは主人と同じく青色吐息だった。




 オオオオオオオオオ――――!!

 ガァアァアアアァア――――!!




 エンジンとバケモノの咆哮二つ、低く低く響き渡る。




「よし、最後の綱渡りだ! タイミングは遅すぎても速すぎても駄目だぞ! 一気に車体を横に、そこから即車体
を倒して攻撃を潜る! 加重移動を間違えるとハイサイドで全員吹っ飛ぶからな!?」

「ハイサイドってなに?」

「今は気にするな、藤代」

「とにかくミスるなってことだね。チームワークが勝利の鍵って、なんかスポ根みたいでいいねー♪」

『放り出そうか』

「ああああ、不謹慎でしたごめんなさいぃぃぃぃ!!」




 君の辞書に学習の文字はないのか、月村忍。




『もしもし? 忍、聞こえてる?』

「あ、リスティさん?」

『ああ。とりあえずボクが居れば安心だ。いくらでもコケてくれ』

「それはちょっと…………」




 忍が三人にその言葉を伝える。




「…………俺のバイクは考慮の外?」

「心配しなくても頑張るよ? 恩バイクだからね……色々と」

「色々、ね♪」

「…………まあ、色々と頑張れ。赤星」




 ああ、と赤星が切なげにため息をついた瞬間、傾斜を登りきる。

 いざというとき頼りになる男、耕介が御架月を肩に担ぎ、不敵に笑いながら立っているのが見えた。傍らには
携帯を持った那美とリスティ、珍しくヒマなのか、真雪と薫もそこに居た。

 耕介がぼそぼそと口を動かした。恐らくは神気発祥と言ったのだろう。




「行くぞ!」

『解ってる!』




 耕介が上段に構え、ぼんやりと金色の光を纏う。そして叫んだ。




「真威! 楓陣――――」

『今ッ!』

「刃ァァァァッ!!」




 ご。




 光の奔流が空気を押し退け、間一髪倒した車体の上を突き進んで“輪郭”に直撃する。




『ゴ……』




 一瞬“輪郭”は硬直し、




『……オォォォォオオォオオォォォッ!!』




 そして光を弾き飛ばす!




『は、はぁぁ!?』

「…………さ、さすがメイドインエリザ…………」

『シャァァアアァアァァッ!!』




 ち、と恭也が短く舌打ちし、反動でバランスを崩さないよう、タイヤとの接地面と垂直の角度で荷台を蹴り、
跳躍する。




「恭也!?」




 忍の叫びは無視。輪郭に向けて殺気を向ける。




『ギッ!?』




 輪郭の速度が一瞬、ゼロになる。輪郭の中で優先順位に混乱が起きて――――




『真威! 楓陣刃ァァァァッ!!』







 咄嗟の機転。

そう評される、完全に状況に対応した反射。







耕介、那美、薫の三段攻撃が飛び、リスティが射線上邪魔になる、滞空中の恭也を更に上へと跳ね上げる。そ
れより僅かに早く、地面とタイヤの摩擦係数と、横滑りで減少した前進する慣性が吊り合い、タイヤが地面を噛
んでバイクが横に進む。車体が安定。再加速を始めるバイクから忍が飛び降り、慣性力に足を取られながらも体
勢を立て直し、最低限の距離をとりながら詠唱開始。この時点で攻撃が輪郭に直撃。輪郭――――簡易思考搭載
型追尾魔導式黒犬(シュヴァルツフント)
は自身に与えられた機能を以って攻撃に対抗(レジスト)を試みる。同時、忍から奪った術式を
制御する余裕を失い、人影が霧散。構成の核となる魔水晶から魔力を抽出、防衛機能を全力稼動。不可視の力場が
発生、“本体”に到達する直前で攻撃を留める。3
.76秒間の均衡の後、単純な出力差から攻撃が力場を突破。本
体に損傷。条件4・「奪還行動中の危機的破損」だと簡易思考が判断。条件発動型魔導式“狼煙”を起動。忍の詠
唱が終了。落下を始めている恭也と自分の周囲に防御力場を作成。その0
.34秒後に“狼煙”発動。輪郭が内側
から膨れ上がり――――











 無音の爆裂。











 恭也たちが稼いだ数秒で、赤星のバイクは衝撃波の範囲外まで到達しており、直接的な被害こそ逃れたが、し
かしバランスを崩す。

 藤代を抱え上げ、倒れ掛かったバイクを蹴って横向きに飛ぶ。バイクが横転。派手な音を立てる。ああ畜生、
大事に乗ってたのに――――そんな思考も一瞬、赤星は藤代に怪我をさせないよう、頭と腰に手を回す。

 こちらから足を地面につける。再加速である程度蓄えられた慣性力は赤星の足を横にすっ飛ばし、四分の一回
転した赤星は肩口から地面に激突する。




「ぐっ…………くぅ、大丈夫か!?」




 とりあえず痛がるのは後回しにした赤星は、最優先事項として友人たちの安否を気遣う。




「…………おかげさまで好評生存中。ありがと、赤星君」




 万事において状況を弁えない女、藤代希。結構幸せそうだったり。




「けほっ……私も大丈夫! 絶賛生存中だよ!」




 土煙で見えないが、忍も声を上げる。




「高町は? …………おい! 高町!?」




 返事のない恭也を探して、体の痛みも無視して起き上がる。あたりを見渡すと――――




「…………高町?」




 赤星たちと耕介たちの中間ぐらいの位置で、恭也は倒れていた。



「…………おい?」




 しかし何かおかしい。

 まず、うつ伏せで、腕も足も投げ出すように倒れている。これは少し変だ。爆発で吹き飛んだという事を差し
引いても、うつ伏せに倒れるというのはまず在り得ない。最悪でも、恭也なら受身の一つぐらいは取るだろう。

 もっと変なのが、恭也の傍らでへたり込んでいるリスティだ。

 瞬間移動で距離を詰めたのだろう。しかしそれなら、恭也を念導力で受け止めるなりするはずだ。しかし恭也
は倒れており、なぜかリスティ自身もその傍でへたり込んでいる。よく観察すると、何故か頬が紅く、自分の肩
を抱きしめるようにして座り込んでいる。




「???」




 赤星はハテナマークを量産しつつ、藤代を離して恭也に近付く(藤代が無表情に残念がっていたのには気付か
ない)。




「高町? …………大丈夫、なの、か?」

「………………………………大丈夫だが…………後生だ、赤星。このまま死なせてくれ」

「はぁ?」




 何言ってんだお前、と言いかけたところで、




「見たぞ見たぞ、あたしは見た!」




 真雪が駆け寄ってきてそう叫ぶ。




「ま、真雪っ!」




 焦るリスティを無視、




「よく聞け美青年二号! 今リスティは爆風で吹っ飛んだ恭也を、念導力でわざわざ自分のところまで引き寄せ
て受け止め、照れる恭也をからかおうとしたんだが、風圧によろけて一歩下がったところに石があって体勢を崩
し、引き寄せた恭也がモロに胸に顔を埋めるカタチに」

「黙れっ!」

「誰が黙るかっ!」




 サンダーブレイク(弱)から逃げ回る真雪。

 赤星は要するにいつもの事かとため息を一つ吐いてから、倒れた愛車の方に足を向ける。




「リスティ! お前というやつは――――」「な、なんで薫が怒るのさ!?」「薫ちゃん…………やっぱり……
……」「ち、違う! うちはただ、恭也君にくだらない悪戯をするなって――――」「バ神咲もいーかげん認め
りゃいーのに」「…………ええと、恭也君、とりあえず起きたらどうだい?」「…………リスティさんに合わせ
る顔がありません。いいんです。俺のようなヤツはこのままここで死んだほうが」「…………いや、不可抗力と
いうか、自業自得というか、むしろ本人も満更じゃなさそ」「耕介、余計なこと言うなっ! サンダーブレイク
ッ!」「おわあぁぁっ!?」「俺のバイク…………あああああ……」「傷だらけ……んー、板金は結構お金かか
りそうだね」「う……ごめん、責任もって修理費だすからさ…………あ、なんならカッコよく改造」「するなっ
!!」「申し訳ありませんリスティさん。死んでお詫びを」「あー、いや、その、なんていうか…………」「…
………恭也君、もしかして錯乱してる?」











 豪胆といっていいのだろうか。曲がりなりにもたった今、死線を潜ったようには全く見えない。




 ぎゃあぎゃあと騒がしい人間のことなど知らぬ気に、太陽はさっさと水平線の向こうに沈んでいった。遅番の
月が、控えめに自己主張を始めても、まだ彼らは騒いでいる。




 恐らくは今日のこれすらも、夕飯時には笑い話になるに違いない。もしも“黒犬”に魂があったのなら、自分の
存在意義に思いを馳せて盛大な溜息を吐いたに違いなかった。








「いやー、なんだかんだで面白かったね。また皆で遊びに」

『成敗!』

「あうっ!?」










 …………はぁ。

























あとがき。

友人「ばーか」

一矢「…………」

友人「はーげ」

一矢「別にハゲとらん…………」

友人「三流作家ー」

一矢「ううううううう…………」

友人「一つ仕上げんのに何ヶ月かかってやがんだよ。M2さんゼッタイ忘れてるぞ」

一矢「ううう、ごめんなさい、申し訳ありませんん…………」

友人「なに? 寄贈が決まったのいつの話よ?」

一矢「…………一月の初め」

友人「ばーかばーか! 色々お世話になる予定の癖してなんだその体たらく! 三流にも程があるわ!」

一矢「あうあうあうあうあう…………」

友人「オラ土下座だ土下座! 半日そうしてろ!」

一矢「ううっ、申し訳ありませんでしたぁ…………」

友人「しかもやっと出来たこれもツッコミどころ満載じゃねーか」

一矢「…………俺の作品でツッコミどころのないモノなんてないけどね…………」

友人「走行中のバイクであんなポンポン会話なんか出来るか?」

一矢「忍が空気抵抗よけの結界張ってたとかでなんとかなんない?」

友人「俺に聞くな馬鹿。ついでに四人乗りって結構不可能度高いぞ。ましてや車体倒すなんて至難の業だ」

一矢「うう、そこらへんもあんまりつっこまんでくれ、大型免許持ち…………」

友人「誰がツラ上げていいって言った。ああ?(ごきっ)」

一矢「ううううううう。ここぞとばかりにぃ……」


友人「ほれ、さっさと連絡事項すませろ。あ、顔は上げるなよ」

一矢「ううう、ちくそう。今回ばかりは反撃の材料がない……」

現在の「一緒に遊ぼう!」シリーズは、

 文化祭編・「一緒に遊ぼう!」(続・とらハSS投稿掲示板)

 次郎編・「彼×(猫+猫+猫)=?」(えせ関西人の部屋)

 ざから編・「物の怪姫の御名前は?」(蒼い月と銀色の太陽)

 生徒会編・「風芽丘“人外魔境生徒会”」(御神狂)

 館長編・「ミッションインポッシブル・マキシマム!〜巻島十蔵闇討計画〜」(落ちた天使の集う場所)

 そして今作です。

 

次回は、






 体育祭編・「あの人は誰?」をえせ関西人の部屋に投稿予定です。気長にお待ちください。

友人「雫編の上中下と、ノエル編もM2さんにあげるんだよな?」

一矢「迷惑かけたからね……でも申し訳ないことにまた先の話なんだなコレが」

友人「はぁ。……ほら、シメ」

一矢「うい。今回は本当、申し訳ありませんでした。拙いですが、可愛がってやってください」

友人「それではまた」











管理人の感想


上ではああ言われておりますが、むしろ頂けて小躍り、いや、複数頂けるのですから、むしろ大躍りですね。

さて、原作に比べるとキャラがくだけていて、浜口さん独自のテイストを加えたこのシリーズでございますが、特筆すべきは希、ざから(こ
のサイトの作品には未登場ですが)などの、本編で名前は出てきたけど性格が分からない組、でしょう。同じ分類にセルフィや葉弓さんな
どが上げられますが、彼女らはサウンドステージやOVAなどで出ていますから、それでも何とかできます。

私も経験がありますが、それをちゃんとキャラ付けるのは難しくもあり……また、楽しい作業です。入れなければならない要素が少ないこと
は逆に、自分で一からそのキャラを作ってもいいということ。ですが、オリジナル要素が強すぎて本編の雰囲気にそぐわないとアレです。

その点、希やざからは魅力的でした。他にも忍の魔術、ノエルの武装などオリジナル要素の設定の深さには脱帽です。

複数のサイトに渡って投稿されてます『一緒に遊ぼう』シリーズ。全てを見るのは、今の段階では少々難儀ですが、サイトを立ち上げた
際には一括して掲載される様子。サイトの立ち上げ、楽しみにしています。




では、これにて。次にこのシリーズを頂けることを楽しみにしながら。