lovers the another world  第二話





「俺は〜耕介〜君の〜友達〜」



機嫌のいい時にはもはやお約束になっている自作の歌を歌いながら、今日もさざなみ

寮の管理人、槙原耕介は仕事をこなしていた。



朝は一番に起きて、寮生の朝食と学生組のお弁当を作る。学生組が寮を出て行ったら、

洗濯に掃除。適当に昼飯を食べてまったりしていると、すぐに夕方。すると夕飯の買い

物に出かけて、帰ってくるとその準備にとりかかる。



簡単に見えて、実は結構ハードなスケジュール。一度、美緒が戯れに一日管理人をして

くれたことがあったが、その無駄に元気が有り余っている彼女でさえも、一日で音を上げ

てしまった。



とは言え、耕介の体力が美緒に及ばないかと言われると、そうでもない。



(要は慣れだよ)

 

疲れてソファに寝そべっていた美緒にお菓子を渡しながら、耕介はそう言った。適材適

所。美緒には美緒で耕介にはできない得意なことがある。要は、それを伸ばして行けばい

いのだ。それは、何も難しいことではない。 



 現在の寮生はほとんどが自分よりも年下であるために、こうした教育者のような考え

を耕介は無意識に発揮するようになった。



 肩肘を張る年頃の女の子を相手に自然に接し、尚且つ大切なことを自然に教え諭す。

これを女性ばかりのさざなみ寮で男性である耕介がやるのだから、彼の管理人という職

業も天職と言っていいかもしれない。



「さて、終わりましたよっと」



 今日はちょっと流しの周りを念入りに掃除してみた。元々大して汚れてもいなかった

流しがさらに綺麗になって、耕介も気分がいい。



 息をはいて濡れた手をエプロンで拭くと、ポットから急須にお湯を注いで戸棚から煎

餅を取り出し、居間へと歩く。途中、読みかけだった広告も回収して、耕介はソファに

座った。



 掃除が多少長引いてしまったため、予定が押している。一服したら、少し早いが夕飯

の買い物に出かけるつもりだった。



(さて、今日の夕飯は…)



 煎餅をかじりながら、広告を見て目ぼしいものにはマジックで印をつける。手頃な値

段の物をリストアップしながら、それで作れるメニューを考えていく。



「今日は、魚がメインか…」



 耕介の肩越しに広告を覗き込む女性が、ぽつりと呟いた。



「真雪さん、おはようございます」

「おはようさん」



 もうすぐ夕方なのだが本当に寝起きなのか、真雪はどこか不機嫌そうな眼差しで頭をぼ

りぼり掻くと、どっかとソファに腰を降ろした。部屋着にしているワイシャツのポケット

から煙草を取り出し、耕介に吸ってもいいかと視線で確認するとそれに火を点ける。



「締め切り、間に合ったんですか?」

「ああ、今回ばかりはマジで焦ったな。前は知佳に手伝わせてたから楽だったんだけどな」

「前もってそれに間に合うように行動しましょうよ…」

「馬鹿言うな。それができたら、世の中すべての漫画家も物書きも編集も印刷屋も苦労し

 ねえよ」



 気持ち良さそうに頬を緩め、真雪は紫煙をはく。そう言えば、前に煙草を吸ったのはい

つだったのだろう、とどうでもいいことを考えながら、耕介は再び広告に視線を落とした。



 そんな耕介を真雪はなんとはなしにしばらく眺め、おもむろに口を開いた。



「なあ、耕介よ…」

「ん、何ですか? 真雪さん」

「お前もよくやるよな」

「よくやるって…何がですか?」

「管理人だよ。あたしが言うのもなんだが、苦労に見合った金を愛からもらってる訳でも

 ねえだろう?」

「何言ってんですか、今さら」



 耕介は見ていた広告を畳んで立ち上がった。エプロンを外して壁にかけ、引き出しから

単車の鍵と財布を取り出す。



「給料のためにここの管理人やってる訳じゃないですよ」



 当たり前のようにそう言い返す。含みも何もない、これが耕介の本心だ。真雪はある意

味予想通りの答えを聞いて緩みそうになる頬を慌てて引き締めた。



「…まあ、ここは女ばっかりだからな。男には理想の仕事だろうよ」

「違いありません」

「にしても、お前には女がいないな。ぼ〜っとしてると、すぐにじじいだぞ」

「そうならないうちに見つかったら…いいですね」



真雪の冗談に軽く笑って、耕介は居間を出て行った。













 遠ざかっていく単車の音を聞きながら、真雪は灰皿に煙草を押し付けた。口元が緩む。

彼女の起き抜けにしては、珍しく気分がいい。



 後、一、二時間もすれば日も暮れてしまうだろうが、こんな日は活動的になるべきだ

ろう。面倒くさがりだが、こう見えても彼女、運動が嫌いな訳ではない。



「さて、じゃあ、散歩にでも行きますかね」



 にやついた顔を両手で叩いて引き締めると、真雪はソファから立ち上がって、着替え

の為に自分の部屋に戻った。













「まいどあり〜」



顔なじみの八百屋の親父さんに見送られながら釣銭を財布の中に入れる。これで予定の

買い物はすべて終了した。時計を見ると、まだ結構な時間が残っている。さざなみ寮に戻

っても仕事をすべて片付けてしまったのですることがないし、今日の夕飯も特別時間のか

かる料理ではないので、早く作り始める意味がない。



 要するに、大体の人間が何かしらの行動をしているこの夕方、耕介は暇なのだった。



「さて、どうしたものでしょう?」



 こういう時、これといって趣味のない自分の性分が恨めしい。ゲームにでも熱中できれ

ばそこらのゲームセンターで時間も潰せるのだが―いや、買い物袋を提げた格好ではそれ

も無理な相談だった。



 森の木陰で読書…という柄でもない。耕介はどちらかと言えば、本を読んでいると眠く

なってしまうタイプだ。暇の潰し方として剣の鍛錬があるが、これにしても趣味と呼べる

ほどの物でもないし、第一、こんな所でできることではなかった。



「暇人さん、暇人さんっと…」



 何かないものか、と辺りを見回しながら歩いていると、耕介はとある店先で足を止めた。



「そう言えば、もうひとつ趣味があったな…」



 にやり、と小さな笑みを浮かべて、その店をしげしげと眺める。



 その店の名前は翠屋。この海鳴では知らぬ者はいない喫茶店であった。耕介のもう一

つの趣味…すなわち、料理である。









 カウベルを鳴らして、耕介は店内に入った。平日の、それも夕方近い時間帯にしては

客の入りは少ない方だが、普通の店で言えば繁盛している部類に入るだろう。テーブル

はすべて埋っているが、カウンター席はいくつか空いている。





「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

「はい――」



 呼びかけられ、何気なくその店員の方を向いた耕介は、その場で動きを止めた。



 もはや地元民である耕介は、結構頻繁にこの翠屋へ顔を出している。寮生の那美のつ

てで、ここの店長一家とは顔見知りだし、バイトを含めた店員にも少々ではあるが顔が

効いたりもする。



 だが、この店員は初めて見る顔だった。ここ一週間は翠屋に来ていなかったから、そ

の間に入ったバイトと考えるのが妥当だろう。その店員が、どう見てもバイトに見えな

かったとしても、だ。



緑色の髪をポニーテールにした、女性。外見から判断するに、年齢は耕介と同じかそれ

よりも下だろう。



だが、その店員の持つ雰囲気…何と言ったらいいのか、母親のように慈愛に満ちた雰囲

気が、彼女は自分よりも年上だという根拠のない確信を与えていた。耕介の女性に対する

勘は、妙な時だけ冴える。そう感じたからには、この女性は年上なのだろう。二十代の前

半でも、十分以上に通用しそうな容姿ではあるが…



「あの…お客様?」



急に動きを止めた耕介の顔を、店員が心配そうに覗き込んでいる。



「いえ…すいません。ぼ〜っとしてました」



まさか、貴女がいくつなのか考えていましたと正直に言えるはずもなく、耕介はただ曖

昧に微笑んだ。そうだ、別に自分には関係のないことだ。かわいい店員さんがいればそれ

で美味しく食事ができる、それで十分だ。



幸いにも、その店員はそれ以上追及せずに、耕介をカウンター席に案内した。



席についてメニューを眺め、ふむと考える。小腹は空いているが、夕食を作る人間がそ

の前に間食を取る訳にもいかない。少しだけ悩んだ末にメニューを決めた耕介は振り返り

――無意識にさっきの店員を探している自分に、苦笑した。



(何をやってるんだ、俺は…)



 結局、耕介はカウンターの中にいた顔馴染みの店員にコーヒーを注文した。









 ほどなくして、コーヒーが運ばれてくる。有名であるだけに、ここの店はコーヒーも

旨い。寮でも同じ豆を使っているはずなのに、何故こうまで味が違うのか…少しくらいは、

研究する価値があるかもしれない。



「槙原さん、いらっしゃい」



 店の奥から、女性がひょっこりと顔を出す。高町桃子――ここ翠屋の店長で、料理人と

して耕介が目標とする一人である。



「こんにちは、桃子さん。ごちそうになっています」

「お夕飯の買い物ですか?」



柔らかく微笑みながら、桃子の目が耕介の隣のスツール上の買い物袋に向いている。そ

の視線に気恥ずかしさを感じながら、耕介は頬を掻いた。



「ええ。家は大所帯ですから、重くて困ります」

「槙原さんのお料理は美味しいですから、皆食べがいがあるなんじゃないですか?」

「そう言っていただけると、嬉しいですね」



 さっきにも増して気恥ずかしさを感じた耕介は、桃子から目を逸らしてコーヒーを飲ん

だ。人間、誉められて悪い気はしない。それが桃子であればなおさらである。





 そんなどうしようもない雰囲気でいると、耕介の背後でカウベルが鳴った。



「いらっしゃいませ」



 決まりの挨拶をしつつ入り口に目を向けた桃子は、入ってきた人物を見て顔を綻ばせ、

耕介に目配せした。内心首を傾げつつ振り向こうとして、その首が途中で止まる。自分の

頬に当たった指を恨めしそうに睨みながら、



「子供っぽいことしてるんじゃない」

「いいじゃないか。面白いんだからさ」



 指を引っ込めて小さく笑いながら、買い物袋をずらしてリスティは耕介の隣に座った。

そして、何も注文していないにも関わらず、いい香りのする紅茶が彼女の前に差し出され

る。



「ああ、僕はここの常連だからさ」



耕介の疑問の視線を勝手に解釈して答えながら、リスティは紅茶に口をつけた。普段は

いつでも煙草を咥えているのに、今日は取り出す気配もない。



「買い物?大変だね、僕らのために」

「何を今さら…」

「照れない照れない。僕らも、耕介には感謝してるんだからさ」



 照れない、と言われても照れるものは照れる。いつの間に、彼女はこんなことを言え

るようになったのだろうか。考えてみれば、最初からそんな要素があったような気もす

るが、最も大きな要因は同居人であるどこぞの不良漫画家だろう。煙草も酒も、彼女か

ら教わったものだ。



「リスティ…真雪さんに似てきたなぁ」

「…耕介まで愛や知佳と同じことを言うね。言っておくけど、そんなに似てないよ」



 そう言って、彼女はふざけて脹れて見せた。彼女に似ていると言うと、リスティは決

まってこんな反応を返すが、本心では言葉ほど嫌がってはいないのだ。考えてみるとお

かしなことだと思うが、真雪とリスティはこう見えて仲がいい。二人で結託してつまら

ない悪戯をすることもあるが、入寮したての頃のリスティの様子を考えたら、それは微

笑ましい変化だろう。



「こんにちは、リスティさん」



耕介とリスティと桃子で、世間話に興じているとさっきの店員が来た。三人の顔を見て

にこりと微笑む。



「Hi、リンディ。もうここには慣れたのかな?」

「おかげさまで」

「リスティ、知り合いなのか?」

「常連だって言っただろ?この人は、一週間くらい前からここで働き始めた――」

「リンディ・ハーヴェイと申します。槙原…耕介さんですよね?」

「…俺のこと、ご存知で?」

「お話は桃子さんやリスティさんから聞いてますよ。お料理が得意な優しい方とか」

「二人とも…あまり人のことを吹き込まないでくれよ…」

「本当のことじゃないか。耕介くらい料理が得意な男なんてそういないだろうし、今か

 でもアピールしておけば、何かいいことあるかもしれないよ」

「あのねぇ…」

「こんな子持ちのおばさんなんて、槙原さんには釣り合いませんよ」

「安心していいよ、リンディ。耕介だってもう十分におじさんだから」

「聞き捨てならないこと言わない…? お子さんがいらっしゃるんですか?」

「耕介だって、十分に聞き捨てならないこと聞いてると思うよ…」

「う…すいません」



 漫才ような二人の物言いに、リンディは口に手を当てて上品に笑った。



「ええ、九歳になる息子が一人。こちらのなのはさんと仲良くしてもらってるんです」

「してもらってるだなんて…なのはもクロノ君と一緒にいれて喜んでると思いますよ。

 帰ってきた時なんて、一日ずっとはしゃいでたんですから」



 そうして、笑いあう女性二人。若く見える外見には少し不釣合いな、優しさに満ちた

笑顔。それは、耕介に二人が母親なのだということを、実感させた。



「桃子、リンディ、とりあえずその辺に。耕介が見とれてるよ」

「あら…光栄ですね」

「からかわないでくださいよ、リンディさん…」

「槙原さんは、素敵じゃないですか。私も、そのうち惹かれてしまうかもしれないですよ」

「ははは…その時は、よろしくおねがいしますね」



 どきどきしながら、リンディの軽口を受け流して耕介はコーヒーを飲み干した。時計を

見ると、もうそろそろ寮に戻らないとやばい時間だった。



「では、俺はこれで失礼します。リスティ、お前はどうする?」

「そうだね…うん、僕も一緒に帰ることにするよ」



 リスティは桃子とリンディに挨拶をして、先に翠屋を出て行った。ポケットから財布を取

り出して支払いを済まし、耕介も彼女の後を追おうとして――



「また、いらしてくださいね」



 リンディの声が背中にかけられる。振り向くと、彼女は耕介に笑いかけた。つられて、

耕介も笑みを浮かべる。この女性は不思議だ…そう感じた。



「また、来ますね」

『ありがとうございました』



 桃子を始め、何人かの店員の声とカウベルに見送られ、耕介は翠屋を出た。









 夕暮れの道、さざなみ寮へと続く道をリスティと二人歩いている。この坂は歩きで上

るには結構長い。買い物に来た耕介を見て、単車で来たものと思っていたリスティには

翠屋を出てしばらくして、早速文句を言われた。彼女も歩きできたため、耕介の足を期

待していたらしい。



 不毛な言い争いもしたが、今はそれに決着もついて二人とも黙って歩いている。買い

物袋は二人で分担して持っているため、影だけを見ると夫婦に見えなくもない。



(何を考えてるんだ、俺は…)



 自分の中に勝手に浮かんだ、そんな想像に耕介は一人でつっこみを入れる。だが、そ

れもありあなかった話ではない。男である自分がさざなみ寮に就職して、早八年。その

間、管理人としての義務感もあったとはいえ、美少女ぞろいのあの場所で何も起こらな

かったというこの事象は、もしかしたら奇跡よりも確立の低いことかもしれない。



 例えば、さきほどの想像通り、リスティと夫婦になっているという可能性もありえた

はずだ。彼女だけでなく、愛とも知佳ともゆうひとも、そんなことも十分にありえた。



 だが、今耕介の隣にいるのは、寮生としての彼女達である。その中の誰一人として、

耕介の恋人でも、恋人であったこともない。縁がなかったのか、自分で思っていたよ

りも責任感が強かったのか知らないが、ようはそういうことだ。この年になって、恋

人の一人もいないのはさすがに寂しい気もするが、実は男にしか興味がないというオ

チでもつかなかっただけ、よしとするべきだろう。



「どうしたの、妙なため息なんかついてさ」

「ん? ちょっと、俺の人生について考えてたんだよ」

「人生ねぇ。もしかして、そろそろ本気で身を固めようとでも思ってる?」

「そうなのかも…しれないな」



 いつものようにからかいのつもりで言ったリスティは、予想外の耕介の返答に沈黙し

た。慣れた様子で懐から煙草を取り出し火を点けると、紫煙を吐き出す。



「…相手に、心当たりでもあるの?」

「いやないな、残念ながら…」

「今から相手を探すのかい? それじゃあ、三十になる方が早いんじゃないか?」

「まあ、今まで一人身で大丈夫だったんだ。いい人が見つかるまで、だったら、多分待

てるだろう」



 門に手をかけると、耕介はリスティから買い物袋を受け取った。さざなみ寮、八年勤

めた仕事場で、リスティ達の住む場所である。ここで色々な女性にあって、色々な経験

をした。ここでの生活は、耕介にとって一生忘れられない物になるだろう。まだ大切な

女性は隣にいないが、いつかそんな女性と共に道を歩くことになったら、ここでの生活

をどんな風に語るのだろうか。



「耕介?」

「いや、なんでもないよ」



 かぶりをふると、耕介は門を開けてさざなみ寮へ。まだ見ぬ恋人よりも、今は世話を

すべき寮生達のことだ。だから結婚できねえんだよ、と真雪の声が聞こえたような気が

した耕介は、苦笑しながら今日の晩御飯について考えを纏めた。









「分かってはいたけどさ…」



 寮に入る耕介の背中を見送って、リスティは一人呟く。彼女はHGS――俗に言う所

の超能力者である。さざなみ寮はそんな彼女であっても、普通に扱うために居心地はい

いのだが、時に他の寮生達が彼女がHGSであるということ忘れてしまうこともある。

特に、管理人である耕介はその傾向が強かった。



「だから、遠慮もなくそういうこと考えるんだろうけど…」



 忘れがちになっている彼女の能力の中に、精神感応がある。人の心を読む能力だが、

リスティの場合、他の能力者よりもその力が若干強いために、時として他人の表層心理

が意図せずに流れ込んでくる時もある。そして、さっきがその時だった。



 耕介に縁がなかった訳はない。少なくとも、きっかけだけは無数に存在していた。リ

スティを始め、当時のさざなみ寮のほとんどの寮生は耕介に思いを寄せていたのだが、

耕介はそれに答えることはなかった。まさか、少しも気付いていなかったということは

ないと思うが、結果として誰とも付き合ったことがない所を見ると、大差はない。



「まさか、僕達のこと女として見てないんじゃないだろうな…」



 まあ、そう思われていたとしても、リスティの行動に変化がでる訳でもない。決定的

なことになるまでは、耕介を追い続ける。少なくとも、知佳にだけは遅れを取るわけに

はいかない。



 短くなった煙草を携帯用の灰皿に押し込んでため息をつく。あの頃と違って、自分は

成長した。耕介の隣に立っても、それほど不釣合いには見えないと、自負できる。



「早く決めないと、本当にいつの間にか年を取ってるよ?」



 管理人と寮生。その関係は昔から変わることはないが、これからも続いていくか、そ

れは分からない。変えていきたいと、リスティも他の寮生も、耕介本人も思っている。



 変わった時、耕介の隣に立っているのがじ自分だったら、そう思いながら、リスティ

はさざなみ寮の門をくぐった。