lovers the another world 第五話








じっと…リンディはある一点を見つめている。普段は幼さすら感じられるその顔は、今

は真剣そのものだった。



(こんな表情もいいな…)



 横顔を見ながら、耕介は何とはなしにそんなことを考えていた。本人はいたって真剣な

のだから、こういうことを考えるのも不謹慎なのかもしれないが、大人である彼女がこう

いう表情をすると、不思議と子供のように見える。



 そんな風にリンディを見るのが、耕介は好きだった。



 ふいに、リンディが動く。



 腕を鋭く、短く振る。耕介が教えた通りの動きだ。得物は思い通りに動いて、思い通り

の結果を持ってきた。



 ぱっと、子供のように微笑んで、リンディが耕介を見る。



「おめでとう。じゃあ、ご飯にしようか」



 耕介も微笑み返し、リンディの頑張った結果…オムレツを切って皿に取り分けた。









 料理を教える…そんな名目で耕介はリンディと会っている…ということになっているが、

本人達を含めて誰もが、それがメインの理由であるなどと思ってはいない。



 要するに、料理の名を借りて堂々とデート(と呼ぶにはあまりにも家庭的かもしれない

が…)をしているのだ。



 突然成立してしまった、二人の恋人関係。それは、周囲に多大な波紋を投げかけたが、

まるでそうなることを定められていたかのように、二人はうまくいっている。



 その証、という訳でもないが、耕介は休日のほとんど全てをリンディに料理を教えるた

めに裂いている。元々下地はあったのか、彼女の料理の腕はめきめきと上達していた。



 オムレツをちゃんと引っくり返して喜ぶなど、まだまだ子供っぽい所もあるが、教える

側としてはこれほど面白い生徒もいない。



 まあ、相手がリンディであることそのものが、教えることを面白くしているのも要因の

一つではあるが…



「クロノ、ご飯だから片付けてもらえる?」

「わかった…」



 リンディがそう言うと、居間でなにやら作業をしていたクロノが工具を片付け始めた。

料理を始める前には、テーブルの上に細々としたものが溢れかえっていたのだが、用意を

終えて居間に移動すると、もうそこは魔法が働いたかのように綺麗に片付いていた。



「クロノ、片付けるの早いね」

「ちょっと、自慢なんだ。手伝うよ、父さん」



 クロノは立ち上がって耕介の盆を取り、テーブルの上に並べていく。リンディは茶碗に

ご飯を盛って、お茶を入れている。耕介はと言うと、何もせずに座って、それらをぼんや

りと眺めていた。

 両親と子供。家族の団欒の風景。



 耕介はクロノの本当の父親ではない…どころか、義理の父親ですらないが、クロノはリ

ンディに彼を紹介されたその日から、耕介を父さんと呼んでいる。



 誰にも言われずにそう言い始めたので、これにはリンディが驚いた。



『だって、結婚するのは間違いないでしょう?』



 臆面もなくそう言ってのけたクロノに、二人は真っ赤になるしかなかった。



『いただきます』



 三人一緒に手を合わせて、夕食が始まる。



 今晩のメニューは、リンディ特製のオムレツ(耕介の指導の下、作成)にスープとご飯。

ご飯はいらないのかもしれないが、気が付いたらリンディが炊いてしまっていたために、

この場に一緒に並んでいる。



 三人で食べているからか、違和感があってもうまい。



「今日はあっちに行くの?」

「ああ。ご飯を食べた後に、行こうと思ってるよ。時間が開いたけど、みんなにちゃんと

リンディを紹介しようと思う」



 その場に居合わせた真雪を始め、寮生は全員耕介達の関係を知っているのだが、改めて

リンディをさざなみ寮に連れて行ったことはなかった。



 紹介してほしいと言われた訳ではないが、何故か本能的に紹介しなければと思った耕介

が設定した日が、今晩なのである。



と言うわけで今晩は、今寮の外で生活している知佳達も含めたさざなみ寮の寮生『全員』

が集結する予定で、今現在既にほとんどが集結しているはずである。



 その彼女達に紹介する。リンディが、この隣にいる女性が生涯の伴侶であると…



「きっと遅くなると思うから、クロノは先に寝てていいわ」

「いや、せっかくだから起きてることにするよ。もう少しで作業が終わりそうなんだ」

「何を作ってるんだ?」

「パソコン…なのかな、一番近い言葉で言えば。なのはとチャットするために作り始めた

んだけど、凝っちゃってね。なのはも少し怒ってるみたいだから、今日のうちには完成さ

せたいんだ」



 オムレツを食べながら、クロノは目で部屋の隅にあるそれを示した。



「根を詰めすぎちゃだめよ。なのはさんだってクロノが倒れることを望んでないんだから」

「でも、なのはが僕とチャットしたいなら、応えたい。分かるでしょ? 母さんにも父さ

んにも」

「まあ…ね」



 まだ小学生であるはずなのにこの少年、機微という物が分かっているらしい。核心を突

いた発言を何気なく言えるのだから、性質がいいのか悪いのか…



(きっと、もてるようになるんだろうな…この子は…)



 いつか誰かから聞いたプチ美形という言葉を思い浮かべながら、耕介はスープを啜った。













「緊張してる?」



 めかしこむ必要はない、という自分の言葉にささやかな抵抗を示して少し着飾っている

リンディと共に、耕介はさざなみ寮前にいた。



「はい…多分、今まで生きてきた中で一番…」

「大丈夫だよ。みんなの人柄は俺が保障するから」

「でも…」

「リンディ?」



 耕介は不安にさせないように微笑ながら、リンディを抱き寄せた。一瞬、抵抗する気配

をみせたリンディだったが、顔を真っ赤にしながらも力を抜いて体を預ける。



「大丈夫…皆、優しい人だから、緊張しなくてもいいんだよ」

「分かってますけど…」

「ん…どうしたら安心してもらえるかな?」

「――――さい」

「ごめん、よく聞こえなかったんだけど…」

「キスして…ください」

「……それで、緊張しないでくれるなら」



 これも役得――いや、人助けだと思って耕介はリンディの顎に手をかけた。リンディは

首まで真っ赤…緊張を解くためにより、一層緊張させているという訳の分からない状況に

置かれながらも、彼女は健気に目を閉じて耕介を待っている。



 耕介本人も、緊張して手が震えている。初めてでもないキスでここまで緊張するのも子

供のようで、実に気分が悪い。ここは早く終わらせて――



「ん?…」

「耕介さん?」

「ごめん、リンディ。これはまた今度ね…」



 肩を叩きリンディを下がらせると、耕介は思い切りドアを開け放った。



 こちらを見つめる、いくつもの瞳。その中にあるのは、少々の気恥ずかしさとそれを遥

かに上回る好奇心であった。



「覗きはいけないと思うんだけどな…お嬢さん方」

「そのですね…耕介さんがいつまで経っても中に来ないから皆気になって…」



 あはは、と全員愛想笑いを浮かべる。怒るべきなのだろうが…耕介はため息をついて、

全員に軽くデコピンをする程度で済ませた。



「紹介するって言っただろう? それなのに覗いてどうする?」

「耕介、お前は腹が減ってる時に後で食い物をやるからって言われて納得するのか?」

「言ってることはもっともらしいんですけどね…明日の朝飯がきのこ尽くしでもいいなら

俺も黙りますけど…」

「冗談はこのくらいにして、お前自分の婚約者をいつまでも玄関に立たせておくつもり

か?」

「そんな訳ないでしょう…」



 耕介は僅かに後ろに下がり、場の雰囲気に気圧されていたリンディに道を促した。見ら

れた、という意識が強いのかいまだに緊張したままだったが、彼女は息をはいて表情を引

き締めると、いつもの余裕を取り戻し、微笑んだ。



「はじめまして皆さん。リンディ・ハーヴェイと申します」



 丁寧な物腰に、今度は庶民派であるさざなみ寮の寮員が黙る番だった美緒を始めとした

学生陣の間では、どういう反応を返せばいいのかという目での会話が一瞬で交わされるが、

若い庶民ゆえに、答えが纏まるはずもない。



「御丁寧にどうも。あたしらも自己紹介したい所だが、何分こんな大所帯っすからね。と

りあえず中にどうぞ。そこのデカブツや翠屋さんほどではありませんが、用意があります

んで」



 人生経験の豊富さの故か、一番余裕のある真雪が寮生達を退けてリンディのための道を

作る。リンディは、耕介と寮生達を交互に見つめて、再び微笑みを浮かべた。



「おじゃまします」



 後ろの耕介と寮員全員に促され、リンディはさざなみ寮に入った。













「リンディさん、お酒は飲める口ですか?」

「ええ…まあ、たしなみ程度でには…」



 リンディを居間に通すなり、真雪は用意してあった酒を注ぎ始める。耕介は確か、リン

ディを迎える準備をしていると聞いたはずなのだが、見回してみてもかなり大量の酒と同

じく大量のおつまみ…



「宴会の準備をしてたんですか、真雪さん?」

「だってお前ら飯食ったんだろう? なのに、あたしらが飯なんて作ってどうする」



 ほら、と真雪に酒の瓶を突きつけられ、耕介はしょうがなくグラスを差し出した。並々

注がれる琥珀色の液体…量もさることながら、度もかなり強い。



 見ると、リンディにも同じ酒が注がれているようだった。自身が割りと酒飲みなせいで、

リンディにも酌をしてもらうこともあるが、彼女はそれほど酒に強いわけではない。



「あまり無理させないでくださいよ…」

「仮に酔いつぶれてもお前が連れていけるだろう?」

「いや、そうですけど…」

「ほら…お前らもぼ〜っとしてないで、注げ。そして飲め」



 話を強引に区切り、真雪は他の寮生にも酒を薦める。寮生…というには、少しばかり無

理があるかもしれない。現在、さざなみ寮の寮生はほとんどが学生である。そのため、那

美達はリンディの手前ということもあって、自室に強制退去させられている。ここにいる

のは、皆成人ばかりなのだ。



 彼女達は、耕介にとって『最初』のさざなみ寮のメンバーである。耕介の婚約というこ

とで、真雪が召集をかけたのだが、ゆうひやみなみなど比較的忙しい者達は参加を断念。

結局、今もさざなみ寮で暮らしている真雪達の他に集まったのは、知佳、薫(十六夜は、

那美の部屋に行ってもらっている)の二人だけであった。



「仁村さん…おめでたい席ですが、あまりはめを外すのもどうかと…」

「うるせ〜 飲みたい時に飲んで何が悪い、なあ坊主?」

「そうだよ、薫。そんなことに拘ってると、すぐに老けるぞ」

「ああもう…おねえちゃんもリスティもそんなこと言ってないの。薫さんも、はい」



 気を利かせた知佳が薫にグラスを渡し、酒を注ぐ。これで、リンディを含めて全員に酒

が行き渡った。グラスを持った全員の視線が耕介に集まる。



「俺が乾杯って言えばいいのかな」

「お前以外に誰が言うんだよ。さあ、さっさと言え」

「じゃあ…『今日、この日に』、乾杯」

『かんぱ〜い』



 グラスを合わせる音と共に、宴が始まった。



「しかし、ついに耕介も結婚か…このまま独身を通すんじゃないかと本気で思ってたっす

からね…リンディさん、ほんとにありがとうございます」

「いえ…お礼を言われることはないと思いますけど…」

「いやいや、こいつに目を付けたのはまさに奇跡ですよ。今まであった色々なもんを全て

無視してきたような男ですからね」

「何の話ですか? それ」

「女の話だよ。そういやまだ自己紹介してなかったな。誰からする?」



 そう言って、真雪はぐるっと参加者を見回した。耕介とリンディを除けば、愛が仕事の

ために参加を断念しているため、真雪を含めて全部で四人。一度リンディに会ったことの

ある真雪は、ちょうど反対側に座っている知佳に目を向けた。



「じゃあ、私からね。はじめまして、仁村知佳と言います。一応、耕介さんの『妹』です」

「…妹さんですか?」



 聞いていない、とリンディが耕介を見る。



「実のじゃないよ…まあ、その辺は追々話すということで…」

「次は僕だね。僕はリスティ・槙原、耕介の…何だろうな、親戚かな?」



 親戚以外の言葉を探しているようだったが、そんな込み入った単語純粋な日本人である

耕介でも知らない。



「で、これであたし以外は全員だな」

「仁村さん…うちはそういう冗談は…」

「分かってるって。ほれ、さっさと自己紹介しろ」

「まったく…うちは神咲薫です。こちらに住んでいた時には、耕介さんにお世話になりま

した」



 この場の人間では一番礼儀正しく、薫はリンディに対して頭を下げた。



「んで、あたしはもう会ってますが…仁村真雪。そこの奴の姉です」

「後、俺の従姉弟の愛さんがいますけど…とりあえず酒が飲めるのはこれで全員ですね」

「さあ、自己紹介も済んだことだし、質問タイムにでもしますか」

「なんすか、質問タイムって…」

「うるさい、耕介。まあ、あたしはその場にいたからそれほどでもないが…お嬢ども、何

か聞きたいことあるか?」



 真雪の声に、一人迷わずの手を上げる女性が一人。耕介の永遠の妹、仁村知佳嬢である。



「リンディさんは、お兄ちゃんのどこが?」

「知佳…それは少々へこむ発言だぞ」

「うう、そういうことじゃないけど…」



 知佳は困ったように微笑んで耕介を見る。



「優しいところ、お料理のできるところ…他にも色々あります。皆さんも気付いていると

ころ…そんなところを好きになりました」



 よどみなく、それでも自然にリンディは答える。用意していたような感じはなく、それ

が本心であると誰もが思った。



「耕介は結構酒飲むけど、リンディはだいじょうぶ?」

「あまり強くはありませんけど…強くなりますよ」

「言うねぇ。でも、弱い奴はとことん弱いままですよ。こいつなんか、特にそうだ」



 ぐいっと、真雪が思い切り隣に座っていた薫の肩を抱き寄せると、彼女は思い切り迷惑

そうな顔をして、その手を掴んだ。 



「わざとやってるなら、うちも怒りますよ。幸い、十六夜も二階にありますから…」



 まだ、それほど飲んでいる訳でもないのに、薫の顔はもう真っ赤だった。力の加減すら

できていないのか、薫の掴んでいる真雪の手は少しばかり変色していた。



 いつもなら真雪がここで切れて、バトルが始まるのだが…さすがに、酒を飲んだ状態は

薫に不利だった。にやついて、真雪が薫の頭を軽く小突いてみると、彼女はうめき声を漏

らして、苦しげに頭を押さえた。



 いくらなんでも酔いが早すぎる。耕介は不思議に思って薫のグラスを手に取り…思わず

顔を顰めた。



「…って真雪さん、何薫に飲ませてるんですか。こんなに強いの飲ませたら、こうなるの

は当たり前でしょう…」



 かなり度の強い酒のストレート…それを飲まされて気付かない薫にも問題があるような

気がするが、飲ませた人間はもっと問題がある。



「ケケ…神咲と言えば酒だろう。コーラに混ぜても気付かないくらいだからな。普段は勘

がいいのに、おかしなもんだ」

「だからってここまで強いの飲ませることないでしょう…ほら薫、大丈夫か?」

「うう…」



 背中を摩ってやっても、当然のことながら良くはならない。



(これは駄目だな…)



 そう判断した耕介は旧薫の部屋――今の那美の部屋――に運ぼうと、彼女の背中に手を

回そうとして、手を掴まれた。



「婚約者の前で他の女に手を出すんじゃない。こいつは…」

「しょうがないな、僕が運ぶよ」



 やれやれ、とリスティが立ち上がり、薫の背中に手を回す。薫も決して重くはないが、

軽くはない。普通だったら、華奢なリスティが二階に運ぶのは不可能であるが…リスティ

は、何でもなく薫を抱え上げた。



 隣を見ると、リンディが目を丸くしている。その視線を感じたのか、リスティは彼女の

方を振り向き、にやりと笑って見せた。



「僕にも手品ができるんだ。その秘密は追々…ね」



 ウィンクをして、リスティと薫は去っていく。その背中を見送りながら、空いていたリ

ンディのグラスに、真雪は酒を注いだ。



「まだ、夜は早いです。神咲は早々にリタイヤしてしまいましたが、あたしらはもう少し

楽しみましょう」

「ええ、そうですね」

「耕介お前も飲めよ。今夜はとことん飲むからな」



 どん、とテーブルに一升瓶が置かれる。銘酒であるが、度の強いことで有名な酒だ。真

雪の秘蔵の酒である。以前、美緒が目の前でそれに触れただけで切れかけたという、さざ

なみ寮では曰くつきの一品だった。



「それを出すってことは…本気ですね?」

「あたぼうよ。さあ、とことん飲むぞ!」



 飲む気でいたリンディも、さすがにこれにはびびったらしい。だが、ここで降りること

ができるはずもなく、かと言って『お〜!!』などと言えるはずもない。



 耕介やリンディ、知佳にとって――真雪以外の人間にとって、ある意味地獄の宴会が、

『今この時から』始まったのである…















「よいしょっと…」



 担いでいた薫をベッドの上に放り出し、リスティはため息ついた。力を使ったとは言え、

リスティの身で人一人を運ぶのは結構の重労働だった。



 肩を鳴らして、懐から煙草を取り出す。火を付けた所で、ベッドの上の薫が目を覚まし

た。



「ここは、『僕』の部屋。酔いつぶれたみたいだからね、運んでおいたよ」

「なして…リスティの部屋に運ぶんじゃ?」

「説明しなきゃいけない?」

「……」



 寝転がったまま、沈黙で答える薫。リスティはその沈黙を肯定と取って、灰を灰皿に落

とすと、



「自棄酒(やけざけ)で酔いつぶれた薫を、那美の部屋に連れて行く訳にはいかないだろ

う?」

「気付いとったか…」

「僕はね。多分、他の皆も気づいてると思うよ。気付いてないのは…多分、耕介だけだ」



 愚かな男だ。この寮の誰からも愛され、その全ての愛に気付かなかった男だ。諦めた者

もいる、その思いを別の物に変えた者もいる…そして、その思いを今も引きずっている者

もいる…



 少なくとも、自分と目の前の酔っ払いはその一人だった。



 兄としても、友達としても、耕介を見ることができなかった。おそらくこれからもその

思いを引きずって、たまに泣くのだろう。



「リンディさん…いい人みたいだな…」

「僕の目にもそう映ったよ」

「なら、うちの目も節穴ではないようじゃな」

「慰めにはならないけどね…」

「これから、向こうに戻るんか?」

「いや…僕もしばらくここにいるよ。耕介とリンディ、少し眩しくてね」

「できれば…どこかに行ってほしいが」

「やだよ。泣いてる薫なんて、そうそう見れるもんじゃない」

「仁村さんには、黙って――」

「喋る訳ないじゃないか…こんな面白いこと…」



 火をつけたばかりの煙草を灰皿に押し付けながら、強い口調で言うリスティ。薫は、顔

を手で押さえて…



 リスティは、ベランダに出た。火照った体に夜の風が心地いい…



 下の階からは、真雪が馬鹿騒ぎする声が聞こえる。そのうち、未成年だということも気

にせずに、那美や美緒にも招集がかかることだろう。



 賑やかになれば、そちらに行かなければならない…そうなる前に…



「おめでとう…耕介…」



 欄干に額を押し付け、リスティは声を殺して…泣いた。