「オークションの護衛?」
出勤して早々、幼馴染の司書長からの通信を受けたはやては、彼の言い分を聞いて疑問の声
を挙げた。肩口には秘書役もすっかり板に付いたリインがいる。
ある意味もう一人のファータであるユーノの話をはやての一緒に聞いている様は、本人は真
面目なつもりなのだろうけれども、その小さな身体と愛らしい顔立ちもあって、やはりマスコ
ットにしか見えない。ちらちらと画面ごしに見つめるユーノも気になっているのか、リインに
目をやるたびに少しだけ苦笑を浮かべるほどだった。
『うん。ロストロギアも含めた骨董品のオークションなんだけど、その護衛を管理局にお願い
したんだ。多分、いや、間違いなく六課にも話が行くと思う』
「にもってことはうちだけやないんやね?」
『地上本部の部隊との合同作戦ってことになると思うよ』
「それは……ちょっと大変かなぁ」
ユーノの手前ちょっとと言ったが、地上と本局の確執を考えるとちょっと所の話ではない。
できることなら六課単体で仕事をしたいところではある。昼番フォワードは新人が多く指揮
系統が複数あると混乱する可能性が高い……というのは建前で、本音を言えば仲の良くない人
と好き好んで仕事をしたくはないという、人間らしい感情に起因していた。夜天の王と言えど
も十九歳の人の子である。
「一緒に仕事するの、どこの部隊かって分かるかな」
『僕のところにはまだ話はきてないね』
「うちは決定っていうのはどういう事情?」
『六課は結構有名だからね。考古学協会の上層部にも、ファンというか興味を持ってる人が多
いんだ。勿論、君達が実力者だって知ってるからこその選定だろうけど、話題先行な感じは否
定できないかな』
「仕事をもらえたんやから、それ以上はないよー」
隊員の質は管理局でも最高クラスであるとはやても自負している。どんな理由で選ばれたの
だとしても、結果で見返せば良いのだ。
「で、参加するメンバーと方針が決まったら、まずユーノくんに連絡するんでええの?」
『本当は協会の幹部がやるはずだったんだけどね……まぁ、幹部と言っても、スクライアの一
族だったり昔からの知り合いだったりするんだけど、面倒臭いからって丸投げされちゃってさ。
今回の件でも管理局との窓口にされちゃったよ』
「ははぁ、ユーノくんも大変なんやねぇ」
『僕もそこそこに偉くなったはずなんだけどね。あの人達の前に出るといつまでも小僧のまま
さ』
愚痴のような発言にも、嫌悪の色は見えない。小僧のように扱われることに不満はないよう
だった。スクライアの一族は皆家族のようなものだというのはいつか聞いたことだったが、無
限書庫司書長となり、彼曰くそこそこに偉くなった現在でも、それは変わらないらしい。
『そうそう。大事なことを忘れてたよ。これを言い忘れたら大変だ』
その後、いくつか取りとめのない話題をし、通信を切ろうとした矢先、ユーノが 思い出し
たように付け加えた。
『内部で警備をする人は正装でお願いするよ。管理局の制服でも良いけど悪目立ちすると思う
から、ドレスとかタキシードとか、そういうのでよろしくね』
「という話がユーノ君からありましたー」
朝一番、新人達の訓練が始まる前に隊長室に集められた管理職メンバーを相手に、全員の上
司であるところのはやては、ユーノからの要請を大雑把に説明した。
集まった全員には、はやてから資料が配られている。はやてが聞いたというユーノの話より
もよほど詳しい内容だ。それをざっと流し読みしてから、恭也は無言で手を挙げた。全員の視
線が一斉に恭也に集まる。
「はい、恭也さん」
「昼番のフォワード全員で行くのですか?」
「会場にはスターズ、ライトニングの両分隊と、私、ザフィーラ、リイン、アルフさんにあと
シャマルも連れて行きます。ブレイド分隊からは誰がこれますか?」
「お聞きした日程に変更がなければ、俺と美由希で参加します。変則的にすずかは夜番シフト
になりますが、クイントさん、あれの面倒をお願いできますか?」
「全然OKよ。私もあの娘と一度、ゆっくり話してみたいと思ってたもの」
夜番実働部隊の責任者として参加するクイントは、恭也の要請を快く受け入れた。年長者と
いうだけあって態度には余裕があるが、そこはスバルの母である。何やら強いらしいと噂のす
ずかと一緒に訓練してみたいという要請は、六課結成時から頻繁に打診があった。
とは言え、夜番で固定のクイントと、概ね昼番であるすずかとでは時間が合うことは少ない。
すずかが夜番に配される今回の件は、クイントにとっては渡りに船と言えた。絡まれるすずか
にとってはいい迷惑だろうが、これも仕事と割り切ってもらうより他はない。
「昼番が外に出るとなると、その間の六課のお仕事はどうなるの?」
「夜番の人員を当てることになるわね。まぁ、皆体力はあるから大丈夫よ。昼番チームは安心
して外の任務に行ってきて?」
なのはの言葉にクイントは笑う。階級でも魔導師ランクでもなのはの方が上だが、局員とし
ての年季はクイントの方が大分上だ。クイントの率いる夜番スタッフは魔導師ランクこそ低い
ものの、チームワークでは他の追随を許さないほどの錬度を誇っている猛者達だ。留守を任せ
るのに、これほど心強い相手もいない。
「参加メンバーはそれで良いとして、配置はいかが致しますか?」
「スバル達とリイン、ザフィーラにアルフさんは外回りで決定やから、中はそれ以外のメンバ
ーで守ることになるんよ。せやから私、なのはちゃん、フェイトちゃん、シグナム、ヴィータ、
恭也さん、美由希さん、この中からオークション会場内部の警備をするメンバーを選ぶことに
なるんやけど……」
言葉を切り、はやてが一同を見回す。 何か妙案はあるか。その問いに最初に答えたのは恭
也だった。
「よろしいでしょうか」
「はい、恭也さん」
「先ほど挙げたメンバー全員でなければいけないと言う訳ではないのですよね?」
「そうですね。三、四人が妥当なところでしょうか」
「先方から誰を連れて来いというような条件は?」
「なかったですねー。条件は正装してくれいうことだけです」
「ならば、はやて、シグナム、ヴィータ、後は俺か美由希を連れて行くのが良いのではないか
と」
「理由を聞かせてもらえるかな……」
聞いてきたのは、はやてではなくフェイトだった。静かな声音には力が篭っている。恭也を
見つめる瞳には非難の色があった。内部メンバーに選ばれなかったことに不満を覚えているよ
うで、隣に立つなのはが若干引いているのが見えた。
義妹の反応に、恭也は思わず溜息を吐く。
「まず、はやてを外すことは出来ない。六課の代表が中にいないというのは、対外的に不味い
からだ。次に、外の新人を隊長、副隊長のどちらかが面倒を見る必要がある。お前、なのは、
シグナム、ヴィータで見た場合、より屋内で戦うことに向いている人間ということで、シグナ
ムとヴィータを選んだ」
淡々と語る恭也の言葉をフェイトは黙って聞いている。
顔に不満の色があるのは相変わらずだが、言っている内容には理解を示しているようだった。
執務官になり凛々しい顔も見せるようになったが内に溜め込む性質は昔から変わっていない。
それでも十年前に比べるとずっと思っていることをはっきり口にできるようにはなっている
が、使い魔であるアルフや同居していたエリオなどに比べると遠慮することがある。
もう少し話すようになれば、と思って数年が経つ。それで人生損をしている風がないのは救
いだった。
「後は俺か美由希がついてフォローするのが良いと思って付け足した。屋内警備などは俺達の
得意とするところではあるからな。ここまでで何か質問はあるか?」
「ない……かな」
「それは良かった。そんな訳ではやて、俺はそういう案を提案します。参考にしていただけれ
ば幸いです」
「私は別にそれで構わんのですけど……他に案がある人は?」
フェイトが手を挙げようとして、止めた。それ以外に反応を返す人間はいない。はやてはふ
む、と小さく一つ頷くと、
「では、恭也さんの案を採用します。ブレイド分隊からの同行者は恭也さんいうことでお願い
します。シフトの調整は昼番、夜番の責任者でよく話し合って決めてください」
『了解』
方針についてはこれで決まった。後は調整をするだけである。昼番が出払った時のためのシ
フトは前もって決めてあるから、クイントとの話し合いも最低限で済む。
むしろ問題は、クローゼットに閉まってあるタキシードをどこのクリーニング屋に出すかと
いうことだった。仕舞う時には万全を期したはずだが、使う機会が少ないだけに虫に食われて
いたりするかもしれない。
それに、当日よりも前に一度袖を通しておく必要もある。バリアジャケットを瞬間装着でき
る魔導師と異なり、テスタロッサ式の魔導師はバリアジャケット構築の術式が完成していない
たけ、戦う時も服装はそのままだ。正装で戦ったことはあるため緊張はそれほどでもないが、
普段の戦闘服と比べれば動き難いことには違いない。
いざという時の行動の遅滞は、自分や仲間の命を危険に晒す。リハーサルはある意味当然と
言えた。
「あー、恭也さん、ちょっと待ってもらえます?」
三々五々散っていく中、はやてに呼び止められた。軽く予定をつめたクイントに手を振って
別れを告げ、はやての元に。そこにはシグナムとヴィータもいた。はやて、恭也も含めてオー
クション内部で警備をする六課メンバーが勢ぞろいである。
「なんでしょうか、はやて」
「さっきの件、当日のことで相談なんですけど、ちょっとドレスを見繕ってほしいんです」
「はやては確かドレスを二、三着持っていたと記憶していますが……」
六課設立の根回しのために、はやてもリンディやレティについでパーティなどに出席するこ
とが多かったからだ。恭也や美由希が個人的にガードについたこともある。他にも古代ベルカ
魔法の使い手であり夜天の王ということもあり、ベルカ、聖王教会関係のパーティに出席した
こともあった。
ドレスの値段もピンキリだが、全てがレンタルということもない。所有していないといざと
いう時困る立場の人間は、一つ二つくらい持っているものだ……とは、レティから聞いた言葉
であるから、その薫陶を少なからず受けたはやても、その例に倣っているはずだった。
恭也の言葉を受け、はやては困ったようにんー、と苦笑を浮かべる。
「私やなくてシグナムとヴィータのなんです。二人とも、パーティに着てくドレス持ってない
言うんですよ」
「意外だな。お前達もはやてについてパーティの一つも出たことがあると思っていたが」
「あたし、そういうの苦手なんだよ」
「ヴィータに同じだ。そういう時はシャマルに任せていたから私もヴィータもドレスの持ち合
わせがないのだ」
「それで俺に見繕えとそういう訳ですか」
「そうです。恭也さんなら妙なネットワーク沢山もってますから、手ごろで二人に似合うドレ
スを商ってるお店を知ってるんやないかとー」
「……候補がないではありませんが」
「紹介してもらえます?」
「しばしお待ちください」
はやてに断り、時計を確認する。朝一の会議であるから、世間一般の基準では早い時間帯に
なるが、商店ならば開店していないまでも店に誰かはいるだろう。それにしたって非常識には
違いないが、恩あるはやての頼みだ。背に腹は変えられない。
「プレシア、ローエン服飾店に繋いでくれ」
『了解いたしました』
簡素なプレシアの返事からしばらくして、モニターに店員の姿が映し出される。
『ローエン服飾店でございます』
「恭也・テスタロッサと申します。ハンス・ローエン氏はいらっしゃいますで――」
『テスタロッサ卿っ! 少々お待ちください、直ぐに代表に替わります』
食い気味に言葉を遮られ、モニターは保留状態に切り替わる。穏やかな待機音が鳴るのを遠
くに聞きながら振り返ると、ヴィータがにやにやと笑っているのが見えた。普段であれば復讐
の一つもしているところだが、人を待たせている状態でおいたはできない。
ヴィータもそれを踏まえた上でのからかいなのだろう。小さな身体にいつも以上の余裕が見
て取れる。
もっとも、反撃されないのは今だけだ。通話が終わればきっちりと反撃することは決まって
いるのだから、ヴィータの余裕もあと数分の命である。今は精々短い平和を謳歌するが良い、
と口の端を挙げて恭也は笑った。
恭也とヴィータの間に、小さく火花が散る。
『――お待たせいたしました、テスタロッサ卿。ハンス・ローエンでございます』
「お久し振りです。タキシードの件ではお世話になりました」
『お世話などとんでもない。テスタロッサ卿にご利用いただけるのは、手前どもにとっても大
変名誉なことでございますから』
凄まじい持ち上げられ方に、背筋が痒くなる。あちらのモニターには恭也が大写しになって
いるはずなので見えていないはずだが、ヴィータなどは笑い転げる寸前だ。シグナムもはやて
も笑いを堪えるのに必死である。
『それで本日はどういったご用件で?』
「ドレスを二着用立ててもらいたいのですが、可能でしょうか?」
『勿論可能でございます。ドレスはプレゼントされますので?』
「ええ。そのつもりです」
恭也の答えに、笑いを堪えていた三人の顔に驚きの色が浮かぶ。はやてに頼まれたのは店を
紹介してもらうことだけ。シグナムもヴィータも、代金くらいは自分で出すつもりでいたはず
だ。はやては二人分のドレス代くらい払うつもりでいただろうが、恭也も男で、見栄という物
がある。
笑われた意趣返しという訳ではないが、折角なので意地を通すことにした。
『テスタロッサ卿の贈り物となれば、下手な物をお出しする訳には参りませんな。プレゼント
される方の最近のお写真などあれば良いのですが、お持ちですか?』
「持ってはいますが、本人達が横にいます」
こいこい、と指で手招きする。いきなり話を振られた二人は面食らったが、呼ばれていかな
い訳にはいかない。どこか緊張した面持ちで、モニターの前に立つシグナムとヴィータ。その
二人を見た瞬間、ハンスが驚きの声を挙げた。
『これはこれは、騎士シグナムに騎士ヴィータではありませんか。テスタロッサ卿、このお二
人がドレスを?』
「ええ。二週間後にホテルアグスタで考古学品のオークションが開催されるのですが、その護
衛任務に参加することになりまして。ところが二人が着ていくドレスを持っていないというの
で、貴店を紹介させていただきました」
『ベルカを代表する騎士お二人が着られるとなれば、いよいよ下手な品をお出しする訳には参
りませんな。スタッフを総動員して最高のドレスを仕立ててご覧に入れます』
「それは何よりです。ところで予算について相談したいのですが……」
大上段に持ち上げられた人間のは思えない、情けない声で恭也は提案する。
管理局員は高収入な職業に分類される。魔導師認定が降りていない魔導師である恭也も、世
間の基準からみればそこそこの高給取りだった。
しかし、ドレスを気軽にプレゼントできる程の蓄え、収入があるかといわれれば答えは否で
ある。
貯蓄もしていなかった訳ではないが、エリオが空士訓練校に入学する時にプレゼントしたス
トラーダの購入費用でほとんどが吹っ飛んでしまった。それからも蓄えは続けているが、ドレ
スを気軽にプレゼントできるほどではない。
加えて眼前の紳士はベルカ自治区でも最古の服飾店の主であり、教会上層部の人間も懇意に
している管理世界でも五指に入る仕立て屋だ。カリムを護衛した時に駄目になったタキシード
を彼に仕立て直してもらったのだが――その費用は勿論、グラシア家が出してくれた――それ
が恭也の年収二年分に相当する最高級品であると知ったのは、それを受け取った後のことだっ
た。
既製品で良かったのだが、彼ははっきりと仕立てると言った。スタッフを総動員するとも。
タキシードと同程度の物を出されると、当たり前だが恭也の手には負えない。一括支払いがで
きないとなるとローンしかないが、意地を通すと決断した後にそれはを言っては具合が悪い。
ないものはない。
しかし、意地は通したい。男というのは悲しい生き物だ。
如何に金がないということを口にせずにハンスに理解してもらうか。それを頭の中で何度も
シミュレートしながら彼の言葉を待っていると、意図を汲んだのかそうでないのか、ハンスは
恭也の望む言葉を口にしてくれた。
『いえいえ、お代など頂戴できません。テスタロッサ卿に加えて騎士お二人にも贔屓にしてい
ただいただけでも、我々には身に余る光栄というものです』
渡りに船だったが、ここで飛びついてしまっては男としても人間としても最低だ。喉元にま
ででかかった是非に、という言葉を恭也はぐっと飲み込んだ。
「そこまでしていただくわけには……」
本音と建前を使い分ける民族『日本人』のスキルを無駄に発揮し、最高の提案を断る恭也。
心の中ではもっと強くでてきて欲しいと強く願っていた。無口無表情と言われるだけあって、
心中の動揺は顔に出ていない。これを見抜けるのは家族の中でもフェイトかアルフくらいの
ものだろう。顔を合わせた機会の少ないハンスには、見抜けるはずもない。
「でしたらこういう条件ではいかがでしょうか」
その願いが天に通じたのか、ハンスは折衷案を提示してくれた。これで無茶な条件を出され
ればプライドか蓄えのどちらかが粉々になるしかなかったが、それは恭也にしてもシグナムに
してもヴィータにしても、検討するにも値しないくらい、簡単な内容だった。
三人の視線が交錯したのは、一瞬だけだ。
「その提案に乗らせていただきます」
『結構なことです。後、出来ましたら本日中にお二方のご都合の宜しい日程などお教えいただ
ければと。たとえ管理世界の何処にいようと、私どもが採寸にお伺いいたします』
それから二三、ドレスに関する注文を受けたハンスは若干慌しげに通信を切った。会議室が
しんと静まりかえる。
「……彼は本当に採寸に来るつもりなのか?」
「来ると言った以上来るだろうな。応対の都合上俺も付き合うが、覚悟は決めておけよ。あの
調子では何人スタッフを連れてくるか解ったものではないぞ」
「あたし、パスして良いかな……」
「管理世界の何処にいても採寸に伺うと言っていたろう? いかに守護騎士とは言え逃げ切れ
るものではないぞ」
語調を強めて言ってやると、ヴィータは憂鬱そうに溜息を漏らした。堅苦しいが苦手なのは
今も昔も変わっていない。どちらかと言えば人前に出たがるタイプのシャマルとは対照的なお
子様キャラなのだ。
「まぁでも、これでシグナムもヴィータもオシャレしてくれるみたいですし、恭也さんありが
とうです」
「俺は紹介しただけですから、お礼を言われるほどのことでは……」
「恭也さんやなかったらあのお店は使えんかったでしょうから、やっぱりありがとうですよ。
当日にはオシャレした恭也さんも見れるし、なんか今から当日が楽しみですー」
「めかしこんだ俺だと見ていて面白いものでもないと思いますがね」
正装は黒であることが多いため、陰気な顔がさらに陰気になるようで恭也は正装している
自分を見るのがそれほど好きではなかったが、周囲の女性には逆に評判が良いのである。一
緒に仕事をしたことのある面々は大抵、もう一度見たい、という反応をするのだ。
何が面白いのか理解できない、というのが正直なところである。
服というのは実用的でされあれば良いと思っているのは、この場では一人だけだった。シ
グナムもヴィータも、着飾ることそのものにはそれなりに憧れるものがあるようで、ドレス
がどうしたと盛り上がるはやてに付き合って、アクセサリーは何が良いかという話に花を咲
かせていた。
こういう場面になると、男は弱い。特に恭也・テスタロッサは弱い。三人の話はまだ続き
そうだった。盛り上がっている三人はこちらに注意を払っていないが、話を振られるのは時
間の問題だ。
不味いことにならないうちに、と恭也はそっと気配を消した。誰の視界にも入らないよう
に、静かに会議室を後にする。
部屋を出てまず一番最初にしたことは、溜息を吐くことだった。余計な支払いをせずに済
んだことが、漸く実感できた。あれで自分で払うということになっていたら、はやて達にも
気を使わせていた。
『女の前で意地を張ってこそ殿方というものですわ、主様』
「意地の張り方にも身の丈にあったやり方があるというのが、今朝の教訓だな……」
そんな教訓を得たとしても、次に同じ機会があれば同じようなことをするだろう。そんな
自分が解っているだけに、恭也の言葉にはそこはかとない哀愁が篭っていた。
損な性分だ――恭也の小さな呟きが廊下に響いた。
落ち着かない。実に落ち着かない。
ドレスを纏ったシグナムは、しかし、波立った心中を顔に出すようなことはせず、主のため
の騎士であるべしという自らの誓いに従って慄然と、敬愛するはやての隣に立っていた。
そのはやてもドレス姿である。クラナガンの八神邸で何度か着ている所を見たことがあるが、
今日も主はやては美しい……と出会った頃よりもずっと美しく成長したはやてに目を細めなが
らも、そんな主と似たような格好をしている自分を思い出して、身を引き締める
胸元と背中が大きく開いた薄いパープルのドレスは、最高の仕立て屋に頼んだだけあって素
晴らしい着心地だった。滑らかな肌触りといい、衣擦れの音といい、服には造詣の深くないシ
グナムでも一級品であることが良く解る品である。
そんなシグナムであるから、会場の男性の視線を集めていた。シグナムが思うようにはやて
も美人であるが、成熟した大人の魅力を持ったシグナムはまた、はやてとは別の意味で視線を
集めていた。
仕事がら視線には敏感なシグナムである。舐めるような男性の視線には一瞬で気づき、殺気
を込めた視線を返すことで対応しているが、そんな男性は次から次へと現れる。
「シグナム、そんな怖い顔してたらあかんよー」
そんな対応にいい加減に辟易していた頃、ようやくはやてから駄目だしが入った。童顔に苦
笑を浮かべてこちらを見上げてくる主に、シグナムは相好を崩――そうとして失敗した。殺気
を放つ視線をい持った強面からは、直ぐには切り替わらなかった。
出来損ないの福笑いのようになってしまったシグナムに、はやてが噴出す。主が微笑ってく
れた――自分が笑われたにも関わらず、シグナムの心は暖かになった。はやては微笑みを浮か
べたまま手を伸ばして、シグナムの頬を両手でゆっくりと揉む。ひんやりとしたはやての指の
感触が心地よい。
「んー、美人さんになったなぁシグナム。こういう所では微笑ってないとあかんよー」
「お気遣い痛み入ります、主はやて」
努めて笑顔を浮かべてみるが、これがまた上手くいかない。はやてはこうやるんよー、とに
こー、っと太陽のような笑顔を浮かべている。こうですか? とシグナムもそれを真似てみる
が、簡単に真似できるのならば苦労はない。
自慢ではないが、こういうことの不器用さでは恭也に匹敵する自信があるシグナムだった。
「ちょーぎこちないけど、まぁ、ええかな。美人さんには違いないし、おっぱい凄いし」
最後の単語だけは聞き捨てならなかったが、今は仕事中だと聞き流すことにした。
「失礼ですが、八神二等陸佐ですか?」
聞き覚えのない声に振り向くと、そこには地上の茶色の制服に身を包んだ女性が立っていた。
年齢は二十代の半ばだろうか。黒く長い髪に黒い瞳と東洋人然とした容貌に、剣のような鋭
い雰囲気。立ち振る舞いにも隙がない。一目で軍属、それもかなりの使い手だと看破したシグ
ナムは自然とはやてを守るように前に立った。
同じ管理局であるが、本局ハラオウン派であるはやてにとって地上本部の人間は油断のでき
る相手ではない。こんな場所で襲撃もないはずだが、主の危険を排除するのも騎士の務めだ。
用心するに越したことはないとシグナムは相手に警戒の色を強めた。
「貴官の所属と名前を伺いたい」
ともすれば尋問のような強い調子にはやてが僅かに慌てるが、女性は気にした様子もなく失
礼しました、と姿勢を正し、敬礼する。
「時空管理局地上本部、首都防衛隊第十八小隊隊長、イヅミ・シュターデン二等陸尉です。先
ほど外で高町二等空尉達にはご挨拶させていただきましたが、本日は共同で会場の警備を行う
ということで、ご挨拶に参りました」
「ご丁寧にどうもー。八神はやて二等陸佐です。こっちはシグナム。六課ではライトニング分
隊の副隊長を務めてもらってます」
はやてが笑顔で挨拶するに至り、シグナムはようやく警戒を解いた。
「シグナムだ。今日はよろしく頼む」
「お二人とも、お噂は聞いております。お会いできて光栄です」
差し出されるイヅミの手をはやてが握り返す。感激しているのは本当なのか、握手にも妙な
力が篭っていた。はやての後は、当然のようにシグナムにも手が差し出される。少しだけ逡巡
して、シグナムはその手を握り返した。
固い、武人の手だった。日頃の鍛錬を怠っていない、無骨な手である。印象通りのその手に、
シグナムは安堵を覚えた。
「私を含めた本小隊三十八名、八神二佐の指揮下に入ります。本日はよろしくお願いします」
「私が指揮してええんですか?」
はやてが疑問の声を挙げる。シグナムも声こそ挙げなかったが、はやてと同じ思いだった。
地上の人間は本局の人間を、本局の人間は地上の人間をあまり良く思っていない。全てが全
てという訳ではなにが、一般的にはそういう風に思われているし、当の局員達も多かれ少なか
れそう思っている。特に地上の人間にその傾向が強いというのが、本局閥で長いこと働くシグ
ナムの所見だ。
しかし、イヅミにはそれがまるで感じられない。地上でも本局でもなく、管理局員であると
いうことと階級しか見ていないように思われた。本来はそれが正しいのだろうが、管理局員の
中では非常に稀有な気質だ。
「もちろんです。むしろ、我々が二佐の要望通りに動けるかどうか心配しているほどで」
恐縮する様子のイヅミに、裏があるようには見えない。高度な皮肉なのではと疑ってみるが、
実直そうなこの女性にそこまでの腹芸はできないように思えた。
「首都防衛隊は精鋭揃い聞いてますけど」
「我々はその中でも新参でして……恥ずかしい話ですか、今年度に新設されたばかりなのです
よ。部隊の中でも私が一番年長なほどです」
照れたようにイヅミは笑うが、年齢を気にするならば六課の昼番フォワードも負けてはいな
い。守護騎士を設定年齢通りとするなら、スターズ、ライトニングを合わせても最年長は十九
歳。恭也のブレイド分隊を含めても、今年で二十七歳になる美由希が最年長だ。新人のエリオ
とキャロに至っては今年で十歳である。
「それだけシュターデン二尉達が優秀言うことですよ」
「だと良いのですがね。ともあれ、今日は全力を尽くして任務に当たります。色々と勉強もさ
せていただきますので、どうぞよろしく」
そう言って踵を返そうとしたイヅミの足が唐突に止まった。視線ははやてとシグナムを越え
てその後ろを見ている。
何を? と思うより先に、聞きなれた声がした。暗くを共にした仲間の声だった。
「遅れて申し訳ありません、はやて」
声に振り返れば、タキシードに身を包んだ恭也とドレス姿のヴィータの姿があった。シグナ
ムのドレスと一緒に仕立てられたヴィータのドレスは、彼女の小柄な体格にマッチした、露出
のあるシグナムのドレスとは対照的な非常にひらひらとしたものだった。
真っ赤なその色からヴィータのバリアジャケットに近い印象を受けるが、いつもの帽子はな
くウサギもない。みつあみにされている髪も解かれ背中に流されている。それだけで随分大人
のように見えるものだ、と恭也と一緒に感心したばかりだ。
もっとも当のヴィータはまとまっていない髪がおちつかないらしく、ドレス姿ということも
あって、落ち着かない様子だ。不安そうな表情で恭也に手を引かれている様は良く言えばお嬢
様と執事、悪く言えば誘拐犯と女の子の構図である。
「問題は解決しました?」
「ええ。俺が魔導師認定されていないことが問題だったようですね。デバイスの持込に関して
聊か面倒な手続きを踏むことになりました」
「早く認定されると良いな」
「全くだ。ところで、そちらは――」
恭也がはやての影に隠れたイヅミに目をやる。はやてが彼女に場所を譲ると、イヅミは満面
の笑みを浮かべて、頭を下げた。
「お久し振りです、恭也さん」
「誰かと思えば、シュターデン三尉ではありませんか。今日の地上からの部隊は、貴女達でし
たか」
「気持ち悪い敬語はやめにしません?」
「職務中に階級を無視してはいけないと、前にも申し上げたはずですが?」
からかいを含んだ恭也の声に、イヅミはもうっ、と声を挙げる。どちらの態度にも親しみが
感じられた。顔見知り以上の関係であるのは見て取れる。突如始まった二人の遣り取りに、は
やても興味を引かれているようだ。
「恭也さん、シュターデン二尉と知り合いなん?」
「ええ。彼女は昔、クイントさんと同じ部隊にいたことがありまして、その時の縁で今でも付
き合いが続いています。美由希と一緒にその後の所属部隊に顔を出して訓練を共にしたりもし
たことがあります」
「恭也さんに面倒を見ていただいた面々が集まって、新しい部隊になったようなものですよ」
「そう言えば、隊長になったのでしたね。二尉に昇進もしたようだ。ばたばたしていて何も用
意できてないのですが、とにかくおめでとうございます」
「無駄に偉くなると苦労するという、恭也さんの言葉を実感する毎日です」
差し出されたイヅミの手を、恭也が握り返す。短い握手の後、イヅミは改めてはやてに視線
を送る。
「八神二佐。少々お時間よろしいですか?」
「ええですよ。出来れば私も他の皆さんにご挨拶したいです」
「ではこちらに。メンバー全員、会議室を借りて待機していますので」
「了解です。ほな、シグナム、ヴィータ、恭也さんといい娘にして待ってるんよー」
ほんならなー、とひらひらと手を振り、はやてはイヅミと共に人込みの向こうに消える。
「そのまま戻る予定だったのが、主はやてを連れて行ってしまったな」
「隊長になったばかりということで張り切っているのだろう。気持ちは解らないでもない」
それだけでもないと思うがな……とシグナムは呆れた調子で恭也を見やる。何故張り切って
いるのか、恭也は何も気づいていない様子だった。
「挨拶に行くのなら、お前もついていった方が良かったのではないか?」
「向こうが隊長だけで挨拶に来たのに、主はやてが私を伴う訳にはいかんだろう。どうしても
私が行くとしたら、主はやてこそここに残るべきだった」
「形式というのは面倒くさいな」
「今回は向こうが主はやてを立ててくれたからスムーズに事が運んだがな。中々デキる魔導師
に見えたが、随分お前に懐いているようだな」
「出会い方が不味かった――いや、この場合は良かったのか? ともかく、最初がアレだった
せいで今でも妙に懐かれているのだ。部隊と言っていたが、集まった連中が想像の通りなら、
連中皆似たようなものだぞ?」
「相変わらず年下に懐かれるのが得意な男だ……」
「否定はしない」
その年下代表のヴィータが、恭也に手を取られたままボーっとしている。はやてがいるのに
会話に加わらなかったというのも相当に重症だ。試しにヴィータの目の前でひらひらと手を動
かしてみる――そうすると青い瞳にはっきりと意識が戻った。
「何か用か?」
「夢心地なようだが、大丈夫か?」
「仕事に手は抜かねーよ。慣れない服だから、ちょっと戸惑ってただけだ」
「大人しくしてると、本当にお嬢様のようだな。仕立てた人間の腕が良かったのか、ドレスも
良く似合ってるし」
「あたしが着るんだから、当たり前だろ」
ふん、と息を漏らしてそっぽを向くヴィータ。その頬はほんのり赤く染まっている。いつも
ならばここで蹴りでも飛んでくるはずだが、それもない。ただ照れるだけ、というのはまるで
本当に少女のようだ。
「悪い物でも食べたのか? 今日のお前は少し可笑しいぞ」
「シグナム、ヴィータはこれでもドレスを着れたのが嬉しいのだ。正しい大人のするべきこと
はさりげなく褒めちぎってやることだと思うぞ。実際、似合ってはいるしな」
「褒めても何もださねーぞ」
「これで口調まで何とかなれば完璧なんだがな……そのままのヴィータもらしくて良い。本格
的に調子が悪いかどうか、これで判断もつく」
「丁寧な口調が良いのなら―ー」
ぎらり、とヴィータの青い瞳に光が灯った瞬間、スカートの裾が僅かに翻る。電光石火の蹴
りを避けることは、恭也には出来なかった。上質のタキシードに後をつけないよう、スカート
が捲れたりしないよう、計算しつくされた威力と角度で、恭也の向こう脛を渾身の力で蹴り飛
ばす。
これは恭也であっても痛い。見ているだけのシグナムですら思わず顔を顰めたが、恭也は平
然と――顔に脂汗を浮かべてはいたが――ヴィータを見下ろしたままだった。無表情でいよう
とする恭也を見上げ、ヴィータは勝ち誇ったように笑う。
「望みどおりそうしてあげてもいーですよ?」
「お前は普段のままの方がかわいいよ」
恭也のおせじに、ヴィータはん、と鷹揚に頷く。小さな胸を張って堂々としている。それが
守護騎士ヴィータのあるべき姿だった。
『ティア、私もドレス着て中の警備が良かったなぁ……』
『二士の身分で仕事選べる訳ないでしょう? ドレスが着たかったら、あんたも頑張って偉く
なりなさい』
えー、とその後も念話で地味に文句を続けるスバルを鬱陶しく思いながらも、ティアナは管
理局員として警備の仕事を続ける。
ホテルアグスタ周辺の警備である。オークション会場内部の警備は恭也達が、ホテル内部の
警備はホテルが元々雇用している民間の警備員と地上本部の人員が担当しており、外周部の警
備をティアナ達機動六課と一部の地上局員が対応していた。
警備の全責任者ははやてであるが、彼女はホテル内部にいるために、全体指揮はシャマルが
行っている。屋上に視線を向けると白衣を纏った金髪の女性の姿がちらりと見えた。
流石にこの距離では顔の判別も出来ない。ちらりと見ただけで視線を戻そうとすると、こち
らの視線に気づいたらしいシャマルが手を振ってきた。この距離で? と内心で驚くティアナ
であるが、会場外の警備状況を把握しているシャマルならば、こちらの位置情報くらいは捕捉
しているだろう。
何より、オレンジ色の髪は昼の光の中ではかなり目立つのだ。なくなった兄が同じ髪の色で
なければ恭也のような地味な色に染め直していたことだろう。自己主張の強い髪の色も、良い
ことばかりではない。
シャマルに対して頭を下げると――手を振り返す勇気はなかった――巡回を再開する。外か
ら襲撃を受けた場合、六課の人員が対応することになっている。そのために恭也達を除く全員
が外に配置されている訳だが、ホテルから離れた場所にいるのはザフィーラとアルフだけで、
他は全員ホテル周辺の警備をしている。索敵担当のシャマルが敵を感知次第、そちらに急行す
るという方針だ。本来ならば施設のバックアップもあって行われるような索敵をシャマル一人
で賄っている辺り彼女の技量も並ではない。
自分との能力の差に暗い気持ちになってしまうのを、首を振って追い払う。他人は他人、自
分は自分だ。自分の非才を嘆いても前に進むことは出来ない。後ろ向きになるくらいならば、
強引にでも前向きに考えて、少しでも前に進むこと。
なりたい自分になるのは、決して簡単なことではない。非才の身であるならば尚更、余計な
感情に捕らわれている暇はないのだ。
「うん、自己嫌悪終了」
気持ちを切り替えて仕事を再開すると、視界の隅に地上の制服が見えた。六課の人員ではな
いから、地上の人間だろう。警備を始める前に頬に傷のある男前な女性の隊長が挨拶に来たが、
その他の隊員とはほとんど顔を合わせていない。外周警備を始めてから顔を合わせる初めての
局員だった。
年はティアナと同じくらいだろうか。暗い緑色の髪をうなじの辺りで縛る、白いリボンが印
象的である。ただ、何が面白くないのか表情はどうにもしかめっ面だ。顔の作りは悪くない所
か手放しで美人と褒めても良いくらいなのに、その尖りきった表情が全てを台無しにしている。
距離にしておよそ二十メートル。向こうもティアナの姿には気づいていたようで、視線が合
うと軽く会釈をする。ティアナも黙ってそれに倣った。階級章が見えるくらいまで近付く。彼
女がしているのは、二等陸士の階級章だった。
つまりは、ティアナ、スバルと同じ階級である。
「何か異常はありました?」
意識して、ティアナは敬語で話しかける。階級が同じならばタメ口でも良いという風習が地
上でも本局でもあるが、違う部隊となると流石に気を使ってしまう。できるだけ相手を刺激し
ないように、うっすらと笑顔すら浮かべて話しかけるティアナに、女性はやはりしかめっ面の
ままで答えた。
「特に問題はありません。そちらは?」
「こっちも。平和なようで何よりです」
「まったくですね」
それで会話は途切れた。んー、と次の会話を探すティアナとは対照的に、話は終わったと判
断した女性は巡回任務を再開しようとする。
「ちょっと待って」
そんな女性の背中をティアナは呼び止めた。振り返る女性の顔には、迷惑だ、はっきりと書
いてあった。仕事中の私語は褒められた物ではない。悪いことをしているのはどちらかと言え
ばティアナの方であるが、このまま別れるのは何だか寂しいと思った。
「私は機動六課のティアナ・ランスター二等陸士。貴女の名前を教えてもらえますか?」
「首都防衛隊第十八小隊所属、ヒトミ・シュナウファー二等陸士です」
それでは、と女性――ヒトミは踵を返した。口数の少ない無愛想な女性というのが第一印象
だったが、不思議と悪い感じはしなかった。憧れの人があの系統の人間であるからかもしれな
い。少しでも微笑むことができるのならぐっと魅力も上がると思うんだけどね……と詮無いこ
とを考えながら、巡回任務を再開する。
シャマルからの通信が入ったのは、そんな時だった。
『三方よりガジェットの機影を確認。六課の人員はただちに現場に急行してください』